めぐりあう時間たち

2003/06/17 丸の内ピカデリー2
ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」と3人の女の物語。
緻密な構成と演出に感心する。音楽もいい。by K. Hattori

 マイケル・カニンガムの小説「The Hours」を原作に、3つの異なった時代に生きた3人の女性たちの姿を描くドラマ。3つのドラマはそれぞれが独立して進行しながら、じつは同じメロディを奏でている。モチーフになっているのはヴァージニア・ウフルの代表作「ダロウェイ夫人」であり、女性を縛り付ける「家庭の幸福」の問題だ。

 明るい映画ではない。この映画には最初から最後まで、常に「死」が付きまとっている。映画の導入部は、1941年に起きたヴァージニア・ウルフの自殺から始まる。その後、登場人物のひとりが自殺するシーンもある。物語のモチーフとなっている「ダロウェイ夫人」は死の予感を乗り越えて最後は生を肯定するのだが、この映画は「死」から始まり「死」に終わる。むしろこの映画は「死」を肯定しているのではないだろうか。映画冒頭と末尾に描かれるウルフの死も、物語の後半で描かれる登場人物の衝撃的な死も、苦悩からの開放という肯定的な意味合いを持っているように思う。

 映画冒頭のウルフ自殺のエピソードを除くと、物語は3つのパートに分かれる。ひとつは1923年のイギリスで、物語の主要モチーフになっている「ダロウェイ夫人」を執筆中のヴァージニア・ウルフの姿を描く。もうひとつは1951年のロサンゼルスを舞台に、今まさに「ダロウェイ夫人」を読み始めた主婦の苦悩を描く物語。そして3つめのドラマは、エイズで世を去ろうとしているかつての恋人を介護するひとりの女性の物語が、現代のニューヨークに展開する。本来は別々に展開するこれら3つの物語は、ヒロインたちのちょっとした台詞や仕草によってそれぞれが関連付けられ、ある物語が別の物語を解説し、別の物語の印象が違う物語に異なった印象を与えるようになるなど、複雑な相互作用を及ぼしあうことになる。この構成はじつに見事。例えば1923年に死んだ小鳥の姿が、別の時代に生きるヒロインのひとりの姿にすぐ切り替わることで、このヒロインの「死」を暗示するといった具合だ。
 
 ヴァージニア・ウフルを演じているのは、この映画でオスカーの主演女優賞を受賞したニコール・キッドマン。しかし'51年の主婦ローラを演じたジュリアン・ムーアも、ニューヨークの女性編集者クラリッサを演じたメリル・ストリープも、それぞれオスカーを受賞しておかしくない熱演だった。特にムーアの芝居は鬼気迫るものがあり、個人的にはキッドマンの芝居をはるかに凌駕していたと思う。もっともこれは、役柄によるものも大きい。「幸福な家庭の中で精神的に殺されていく女」というテーマは、ムーアが演じたローラのエピソードでもっとも直接的に描かれているからだ。彼女が子供を託児所に置き去りにしたまま自動車を出すシーンや、夫の誕生日の夜にトイレで泣くシーンの恐いまでの迫力! 複雑な脚本や豪華キャストに振り回されなかった監督も優秀だ。

(原題:The Hours)

5月17日公開 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:アスミック・エース、松竹
(2002年|1時間55分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.jikantachi.com/

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DVD:めぐりあう時間たち
サントラCD:めぐりあう時間たち
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原作:めぐりあう時間たち―三人のダロウェイ夫人
シナリオ対訳本:めぐりあう時間たち
原作洋書:The Hours
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