キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

2003/02/06 イマジカ第1試写室
実在した詐欺師と捜査官の追跡劇をスピルバーグが映画化。
父と息子のドラマになっているところがミソだ。by K. Hattori

 『A.I.』と『マイノリティ・リポート』でファンをがっかりさせたスピルバーグの新作は、'60年代に活躍した実在の詐欺師フランク・アバグネイルの実話を映画化した、コミカルでちょっと悲しい青春ドラマ。主演はレオナルド・ディカプリオとトム・ハンクス。家出した16歳の少年が身分を偽って次々と偽造小切手を現金化し、あっという間に数百万ドルを荒稼ぎするという話が、まずは実話であることに驚かされてしまう。そしてスピルバーグの演出力にも!

 物語は10代の凄腕詐欺師とFBI捜査官の追いかけっこが縦軸だが、家庭に恵まれなかった主人公が暖かい家庭や家族を求める気持ちが横軸になっている。そしてこの横軸は、スピルバーグ自身の人生とも重なり合うのだ。映画の中では主人公フランクが16歳のとき両親が離婚し、それに反発したフランクが家出して詐欺師稼業に足を踏み入れることになっている。スピルバーグが高校生の時に両親が離婚し、それ以降は母に引き取られて育っているのは有名な話だ。スピルバーグの映画にしばしば母子家庭が登場することや(例えば『未知との遭遇』や『E.T.』)、登場する父子関係がどことなくぎこちないものであることなどは(例えば『インディ・ジョーンズ3/最後の聖戦』)、こうしたスピルバーグ本人の生い立ちの反映だと思われる。

 だがこの映画ではこれまでのスピルバーグ映画で濃厚に描かれてきた母子関係より、父と息子の関係が強調されている。スピルバーグは『プライベート・ライアン』の製作を通して、気持ちの上で父親と和解したのだろう。今回の映画に登場するディカプリオとクリストファー・ウォーケンの父子関係は、父親と離れて暮らしていた少年時代のスピルバーグの気持ちが、そのまま正直に投影されたもののように思えるのだ。

 詐欺師の映画としては過去に『スティング』という大傑作があるが、今回の映画もそれに負けないくらい痛快な詐欺師映画だと断言できる。だが同時にこれは、ひとりの少年が自分の境遇を受け入れ、大人へと成長していく物語なのだ。だから映画のクライマックスは詐欺が成功するか否か、彼が逮捕されるか否かではない。この映画ではフランク逮捕のいきさつをいくつかに分割し、わざわざ映画最大の山場になることを避けてさえいる。この映画の本当のクライマックスは、フランクが逮捕された後のエピローグ部分にある。FBIの協力者として刑務所から出てきたフランクは、そこでもう一度、自分自身で人生を選び取る自由を与えられるのだ。はたしてフランクは再び自由気ままな詐欺師稼業に戻るのか。それともまともな社会人として生きていく道を選ぶのか。

 結果はみんな知っている。映画の冒頭に社会復帰したフランクが登場しているからだ。でもわかっている結論に向けてハラハラドキドキさせるスピルバーグ演出。やっぱりスピルバーグは上手い!

(原題:Catch Me If You Can)

2003年3月21日公開予定 日劇1他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2002年|2時間21分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.uipjapan.com/catchthem/

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DVD:キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
サントラCD:キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
サントラCD:Catch Me If You Can
原作:世界をだました男
原作:Catch Me If You Can
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