抱擁
2003/01/15 ワーナー映画試写室
図書館で発見された1通のラブレターが英国文学史を書き換える。
架空の文学史を題材にしたミステリー風の恋愛映画。by K. Hattori
ビクトリア朝時代の詩人ランドルフ・ヘンリー・アッシュについて調べていたローランド・ミッチェルは、アッシュの蔵書にはさまれた1通の手紙の下書きを見つける。それはアッシュが知人宅で出会った女性に宛てたラブレター。愛妻家として知られるアッシュが妻以外の女性と恋愛関係があったとなると、これは英文学史を塗り替える一大ニュースになる。だが手紙は誰に宛てられたものなのか? 手紙は実際に差し出されたのだろうか? アッシュ夫人の日記などから、ローランドはアッシュが出会った相手が同時代の女流詩人クリスタベル・ラモットだと直感。彼はラモットの研究者として知られるモード・ベイリーの協力を得て、文学史に封印されたミステリーに迫っていく。やがて彼らの前に現れたのは、悲しい愛の物語だった。
『ベティ・サイズモア』のニール・ラビュート監督最新作は、A.S. バイアットのブッカー賞受賞作「抱擁」を原作とするミステリー風のラブストーリー。映画の中では2つの恋愛ドラマが平行して描かれる。ひとつは19世紀の詩人アッシュとラモットの秘められた恋。もうひとつはこの恋愛事件を探求する研究者ローランドとモードの間に生まれる恋愛感情。残された日記や手紙を通して100年前の詩人の恋を追体験するローランドとモードは、100年前の恋を再現するかのように恋に落ちていく。
ローランド役はラビュート監督作の常連アーロン・エックハート。モード役にはグウィネス・パルトロウ。ビクトリア時代の物語に登場するのは、ジェレミー・ノーザム、ジェニファー・エール、リーナ・ヒーディーなど。なにしろ物語の中にまったく接点のない2つのドラマが共存しているわけだから、下手をすれば映画そのものがふたつに分裂してしまいそうにも思うのだが、ラビュート監督は見事なさじ加減でふたつのドラマを両立させることに成功している。過去の恋愛ドラマが現代に生きる人々を勇気づけるという意味では『マディソン郡の橋』とも通じる構成なのだが、この映画では現代と過去がもっと密接につながり合っているのだ。
ミステリー趣向のある映画だが、途中からは主人公たち以外にもアッシュとラモットの手紙を探す人々が現れて競争になるなど、娯楽映画としてのツボを巧みに刺激する筋立て。詩人ふたりの恋愛模様は互いの手紙のやり取りを朗読することで再現されるのだが、何しろこれが凡人の書くラブレターではなくふたりとも天才的な詩人だから、字幕を読んでいるだけでも言葉の力強さと美しさにうっとりしてしまうような美文調。英語圏の観客にはこのくだりがもっと力強く胸に迫って来るのでしょうが、日本人で残念だなぁ。
よくできた映画だけれど、ずっしりした手応えが感じられないのは残念。十分に面白いし感動もするのだけれど、印象が軽いのです。現代のふたりが恋に踏み出せない理由が、ちょとと弱いのかな……。
(原題:POSSESSION)
2003年陽春公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ワーナー・ブラザース映画
(2002年|1時間42分|アメリカ)
ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/
DVD:抱擁
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