女はバス停で服を着替えた

2002/12/26 シネカノン試写室
北海道鹿追町を舞台に、戸田菜穂と遠藤憲一が演じるメロドラマ。
ダンスがもっとうまければ最高だったんだけど。by K. Hattori

 日活ロマンポルノで活躍し、一昨年『NAGISA』で久しぶりに劇場映画に復帰するとともに、ベルリン映画祭のキンダー・フィルム・フェスト(児童映画部門)のグランプリを受賞した小沼勝監督の最新作。今回は北海道十勝平野の北西端にある鹿追町という小さな町を舞台に、東京から生まれ故郷である町に戻って蕎麦屋を開こうとする男と、彼に会うため東京からやってきた女の、激しくも悲しい愛の結末を描いた恋愛ドラマになっている。

 主演の戸田菜穂は数々の映画で馴染みの顔だけに、この映画が“初主演”というのが意外に思える。遠藤憲一はテンションの高いブチ切れ芝居に定評のある怪優だが、今回は激しい感情の揺れ動きを胸の内に抑えた男を静かに淡々と演じている。制作は鹿追映画製作委員会で、後援が鹿追町という、地域が主体になって作ったふるさと映画。町内の観光地や名物を盛り込んで観光誘致映画としての効果を期待しているのだろうが、完成した映画はそうした町側の注文に応えながら、ドラマとしてしっかりと芯の通ったものになっていると思う。

 故郷鹿追を離れて東京で暮らしていた有坂充が、しばらく前から町に戻ってきている。東京での生活を全て捨て、自分の手で小さな日本蕎麦屋を開こうというのだ。そんな彼を東京から訪ねてきたのが、高津瑞枝という若い女だ。彼女は交通事故で死んだ充の弟・匡の妻であり、かつて充のパートナーとしてサルサのコンテストに出場したことのある関係だった。だがふたりの関係はどこかよそよそしい。じつは充と瑞枝は匡の生前から男女の関係にあり、ふたりは匡の事故死に精神的な負い目を感じていたのだ。東京の暮らしを捨てて故郷に戻った充に向かって、瑞枝はただ現実から逃げているだけだと非難めいた言葉を投げかける。ふたりは心の底から愛し合っている。それなのに……。

 映画は最初主人公ふたりの関係を伏せておき、中盤までは「ふたりはどんな関係なのか?」という謎で観客を物語の中に引き込んでいく。ふたりの関係が観客の前に一気に明らかになる瞬間のエロチックなこと! 戸田菜穂演じる瑞枝の身体から発散される、濃厚な女のニオイ。そのフェロモンに気押されるように、つい彼女の身体に触れてしまう充の表情。ここから物語は一気に佳境に入っていく。この時点で僕は、この映画が傑作になることを確信した!

 ところが映画は終盤に致命的な欠陥があり、それが映画全体の評価を2,3割は引き算せざるを得ない原因となっている。主人公たちふたりはサルサの大会で上位入賞するダンスパートナーということになっているのだが、残念なことに戸田菜穂と遠藤憲一のダンスは忘年会の余興程度のレベルで、映画を観ている観客を唸らせる説得力がまるでない。これではふたりがダンスパートナーとして心身共に結ばれていたという感じがせず、ダンスを不倫の言い訳に使っていたように見えてしまう。

2003年3月上旬公開予定 吉祥寺バウスシアター、ユーロスペース
配給:アルゴ・ピクチャーズ
(2002年|1時間39分|日本)
ホームページ:http://www.town.shikaoi.hokkaido.jp/movie/

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