アカルイミライ

2002/12/17 シネカノン試写室
オダギリジョー主演の世代断絶ドラマ。共演は藤竜也と浅野忠信。
リアリズムとファンタジーが同居した黒沢清ワールド。by K. Hattori

 おしぼり工場でアルバイトをしている仁科雄二は、いつも何かにいらついている。以前は眠った時よく未来の夢を見たものだが、最近は夢を見ることもなくなってしまった。雄二のよき理解者で友人と言えるのは、同僚の有田守ただひとりだ。だがある日つまらない問題で会社をクビになった守は、社長夫婦を殺して警察に逮捕されてしまう……。

 『CURE』や『回路』などの作品で、日本のホラー映画ブームの一翼を担ってきた黒沢清監督の最新作。ただし今回の映画はホラーではない。監督の名かでは『人間合格』や『カリスマ』『大いなる幻影』に連なる非ホラー系列の作品だ。主人公の雄二を演じるのはオダギリジョー。同僚の守役が浅野忠信。守の父を藤竜也が演じている。基本的にはこの男たち3人の物語だ。

 使い古された言葉で言えば、この映画は「ジェネレーション・ギャップ」をテーマにしている。最初から最後まで描かれているのは、絶望的なまでに広がってもはや接点を持たない世代間の断絶だ。こうした視点から映画を観ると、全体は3つのパートに分かれている。最初はおしぼり工場の社長と、雄二&守コンビの間に横たわる断絶。この断絶を無視して不用意にふたりに近づいた社長は、守の手にかかって妻と一緒に殺されてしまう。この時、社長夫婦の娘だけが惨劇から生き残っていることに注目すべきだろう。この映画ではいつも、世代が下の人間が自分より上の世代と衝突し、そこで葛藤が起きるのだ。

 第2のパートは映画の中心になる部分で、主人公の雄二と守の父・真一郎の関わりを描いている。これは単なる衝突だけではない、疑似親子関係のような人間関係になっている。真一郎は行き場のない雄二の保護者のような存在になるが、雄二がやがて真一郎を乗り越えて行くであろうことが、工場の屋根からアンテナを引きずり落とすシーンで的確に描かれている。真一郎が作ってきた世界の上から外界をながめても、雄二にとって魅力的な風景は何も見えない。雄二は真一郎のもとを巣立って、自分の世界を探さねばならない。

 雄二と街で出会った高校生たちの関わりを描いた第3部で、この映画のテーマはスクリーンに結晶化される。ここに登場する高校生たちは雄二の手引きで事務所荒らしをするのだが、そこにあるのは現金強奪というより、純粋な反抗と破壊衝動の発露だけに思える。秩序への反乱に理屈はいらない。若者たちは揃いのTシャツ(チェ・ゲバラの肖像がプリントしてある)を着て、街を我が物顔にのし歩く。しかしこの姿は、映画の中で非常に肯定的な存在として描かれている。「若者よ反抗せよ!」「若者よ反乱を起こせ!」「反抗や反乱に理屈なんていらないぞ!」という叱咤激励が聞こえてきそうなエンディング。

 明確な目的など無くとも、若者たちは前に向かってどんどん進む。決して立ち止まらないその姿の中に“アカルイミライ”はあるのだ。

2003年1月18日 シネアミューズ
配給:アップリンク 宣伝:maison
(2002年|1時間55分|日本)
ホームページ:http://www.uplink.co.jp/film/jellyfish/

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