秘密の涙

2002/12/17 メディアボックス試写室
『囁く廊下/女校怪談』の監督が作ったファンタジー・メロドラマ。
何がいいたいのかさっぱりわからなかった。by K. Hattori

 日本で『囁く廊下/女校怪談』が公開されている、パク・ヒキョン監督の長編第2作目。『囁く廊下』では学校内での教師の暴力、イジメ、セクハラなどを怪談映画の文脈に持ち込むことで、社会性のあるエンターテインメント作品として韓国国内で評価され、大ヒットもしたという。こうした「社会派の視点」は今回も健在で、映画の中では韓国版の援助交際が取り上げられていたりする。ただし今度はこれがちょっと取って付けたような感じで、前作ほど物語の中心にはなっていない。

 保険会社で調査の仕事をしているクホは、同僚らとさんざん飲んだ帰りの道を運転中、道路の真ん中に立っていた女子中学生をはねてしまう。周囲には民家もなければ他に行き交う車もない。グッタリした少女を、とりあえずクホは自宅へ運び込む。やがて眠りから覚めた彼女は、自分が何者かという記憶と、言葉を話す能力を失っていた。だが間もなく彼女は、クホに向かってテレパシーで話しかけるようになる。離れていても通じ合うクホと少女の心。彼女の身元を調べた結果、そこは奇妙な事件とつながっていた。また彼女の中ではテレパシー能力以外にも、水を引き寄せる不思議な能力が芽生えつつあった……。

 脚本は監督自身が書いているようだが、並行して語られる複数のエピソードが未整理で、物語全体がまったくバラバラになっているような印象を受ける。クホと少女のテレパシーによる交流。クホと少女の愛情関係。少女の身元探し。少女の両親が巻き込まれた事件の真相解明。少女の持つプリクラに写っていた友人の少女の話。少女に身に付いた水を引き寄せる能力。いったいこの映画はこうしたエピソードを通して、観客に何を訴えかけようとしているのだろう。中年男と美少女の純愛? それとも不思議な超能力を持ってしまった少女の悲劇? 少女の正体を巡るミステリー? 語るべき内容によって、物語の口調は決まってくる。この映画はあれもこれも語りたくて、結局は観客に何も伝わらなくなっているのではないだろうか。

 映画の軸になるのは、中年男クホと美少女の純粋な愛情関係だ。作者はテレパシーによって心と心の結びつきを強調し、中年男と美少女のプラトニックな恋愛を描けると思ったのかもしれない。だがこれはやはり無理がある。ふたりの肉体的な接近を阻むものが何もない以上、部屋で同棲している主人公たちをいつまでも遠ざけておくことはできない。だがふたりを肉体的に結びつけるのは道徳的に問題がある。映画はこのジレンマを解消できなかった。だったら最初から、主人公の年齢をもっと下げればいい。あるいは少女の年齢をもっと上げればいい。それが出来ぬまま「中年男と美少女」という関係性にこだわった作者のロリータ趣味が、この映画を煮え切らないものにしている。
 
 少女を演じたユン・ミジョは、目玉がぎょろぎょろ大きくてちょっと異様。

(原題:秘密 Secret Tears)

2003年1月25日〜2月14日 辛韓国映画祭(テアトル池袋)
配給:ミロビジョン、東京テアトル 宣伝協力:ライスタウンカンパニー
(2000年|1時間46分|韓国)
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DVD:秘密の涙
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