壬生義士伝

2002/12/09 松竹試写室
浅田次郎のベストセラー小説を滝田洋二郎が映画化した時代劇。
確かに泣けるんだけど、ラストは釈然としない。by K. Hattori

 人気小説家・浅田次郎の時代小説「壬生義士伝」を、『陰陽師』の滝田洋二郎監督が中井貴一主演で映画化。テーマはご存じ新選組の興亡記だが、主人公を無名の平隊士・吉村寛一郎に設定し、自由自在に想像力で肉付けしていったところがミソ。吉村寛一郎は南部森岡出身の隊士として新選組の名簿にも載っている実在の人物だが、故郷の盛岡に吉村についての記録は一切なく、その実像については謎に包まれているらしい。新選組の隊内で剣術指南役をしているのだから、恐らく相当に腕は立ったのだろう。彼がなぜ家族を残して脱藩し、幕末京都の特殊警察新選組に飛び込んだのかはわからない。だが浅田次郎はその理由を、食うや食わずの足軽身分で家族を養えなくなった吉村が、故郷の妻子に仕送りするためだとした。明日をも知れぬ身で金を湯水のように使う隊士が多かった新選組の中で、吉村はせっせと吝嗇に励み、故郷に送金を忘れない。酒が入れば必ず口をついて出るお国自慢と家族自慢。吉村の心は常に故郷にあり、彼の思いはいつも故郷の家族に向けられていた。

 今年1月には渡辺謙主演で10時間ドラマが作られているが、今回は上映時間が2時間17分で、主演が中井貴一ということもあって随分と様子が違う。最初は役所広司主演でスタートした企画だが、これはむしろ中井貴一主演で正解だったようにも思う。田舎侍の素朴さと金目当てにしか見えない吝嗇ぶりの下にある一本筋の通った侍の性根を演じるには、中井貴一が持つ素直さや素朴さが打ってつけだったと思う。特に映画前半の主人公は絶品。導入部の試合シーンから、思わず画面に引き込まれていってしまう。

 新選組ものとしては新鮮な作品だと思うが、映画には少々釈然としないところもある。この物語の起点となる場所が、明治期の東京になっている理由がそもそもわからない。回想形式は長い物語をダイジェストしていくには便利な手法だが、語り手のひとりが元新選組隊士の斉藤一で、もうひとりが吉村とゆかりのある盛岡出身の医者という設定は、あまりにもストーリー運びの便宜だけを考えたもののように思えてしまう。幕末維新の時代と、明治という時代、そして映画を観ている21世紀の今をつなぐ線が、この映画からは見えない。

 僕は原作を未読だが、10時間ドラマ版でも今回の映画でも、主人公が最後に単身で倒幕軍に突っ込んでいく理由や、満身創痍で大阪の藩邸に逃げ込む理由が釈然としなかった。さらに言えば、エピローグとなる吉村の息子の話もよくわからない。映画のタイトルは『壬生義士伝』だが、僕はここで語られている「義」が何なのかわからない。天下国家より、故郷の藩より、新選組より、主人公にとって家族を守ることが「義」なら、主人公やその息子の行く末にはもっと別の道があったようにも思うのだ。このあたりがもう少しスッキリと見えると、感動は10倍にも100倍にもなるだろうに。

2003年1月18日公開予定 丸の内プラゼール他・全国松竹東急系
配給:松竹
(2002年|2時間17分|日本)
ホームページ:http://www.mibugishi.jp/

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DVD:壬生義士伝
サントラCD:壬生義士伝
原作:壬生義士伝(浅田次郎)
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