ボーン・アイデンティティ

2002/12/04 UIP試写室
ロバート・ラドラムの「暗殺者」をマット・デイモン主演で映画化。
ひとりの青年の自分探しの旅がテーマになっている。by K. Hattori

 ロバート・ラドラムの代表作「暗殺者」を、マット・デイモン主演で映画化したサスペンス・アクション映画。同じ原作は'88年にリチャード・チェンバレン主演でテレビ映画化されているが、今回の劇場版では主人公の年齢を原作よりずっと下げたという。これは記憶喪失になった男が自分自身が何者なのかを探るという筋立てを、自分の可能性や能力を探る普遍的な青春の悩みとうまくオーバーラップさせるのが目的だろう。それを証明するように、この映画では主人公と同行するヒロインを、ヨーロッパ各地を放浪して回る若い女性に設定している。このヒロインもまた、迷いながら自分の生きる道を探している。

 嵐の地中海で漁船に拾い上げられたひとりの男。彼は背中に2発の銃弾を受け、皮膚の下にはスイスの銀行口座を示した特殊なカプセルを埋め込んでいた。彼は何者か? それがこの物語最大の謎になる。男は銃撃と海に投げ出された衝撃で、それまでの記憶をすっかり失っていたのだ。唯一の手がかりであるスイスの銀行で、男は自分の写真が貼られた複数のパスポートと大量の現金、そして銃を見つける。自分はアメリカ人のジェイソン・ボーン? だがその直後から、ボーンは何者かに追われ始める。追っ手は何者か? 何のために自分は追われているのか? ボーンは偶然知り合ったドイツ人女性マリーの車に乗り込み、パスポートに記されたパリの住まいに向かうのだが……。

 特殊任務に就いていたエージェントが作戦中に記憶を失うというストーリーは、『ロング・キス・グッドナイト』『フー・アム・アイ』『バイオハザード』などにもあったアイデア。これらもすべてラドラムの原作を参考にしたのかもしれないが、今回の映画に新鮮味を感じないのは事実だ。記憶喪失の男に次々襲ってくる刺客。それを無意識のうちに撃退してしまう、驚くべき自分の身体能力に自分自身で唖然とする主人公。もっともこの映画では、「主人公は何者か?」という問に対する答えは最初から観客の側に明示してある。彼はCIAが要人暗殺のために送り込んだエージェントなのだ。問題はなぜ彼が作戦に失敗し、CIAはなぜ彼を抹殺しようとするのかだ。残念ながらこの理由付けが、この映画ではちょっと甘くなっている。映画を最後まで観ても、理由付けは弱いと思う。

 物語のアイデアに新鮮味がなく、脚本の作りも甘いと思うものの、この映画はしっかりと見応えのある作品だ。魅力の第一は、マット・デイモンの確かな演技力だろう。漁船に助けられた後、自分が何者なのかわからず怯えるその眼差し。人間は記憶の集積の中で生きている。蓄えた経験や知識が、その人間を守ってくれる。だがこの主人公は、それをすべて失ってしまったのだ。その不安感をデイモンが納得させてくれるからこそ、この映画のスリルがリアルなものとして伝わってくるのだ。ヒロインのフランカ・ポテンテも好演している。

(原題:The Bourne Identity)

2003年1月25日公開予定 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2002年|1時間59分|アメリカ)
ホームページ:http://www.uipjapan.com/bourne/

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DVD:ボーン・アイデンティティ
サントラCD:ボーン・アイデンティティ
原作:暗殺者(ロバート・ラドラム)
原作洋書:The Bourne Identity
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