K-19

2002/11/15 日本ヘラルド映画試写室
1961年に起きたソ連原潜の事故をキャスリン・ビグローが映画化。
主演のハリソン・フォードはミスキャストだろうに。by K. Hattori

 1961年に起きたソ連原潜の放射能漏れ事故を、ハリソン・フォードとリーアム・ニーソン主演で映画化した実録サスペンス映画。監督は『ハート・ブルー』のキャスリン・ビグロー。製作費130億円、上映時間2時間18分という大作だ。物語の大部分は、潜水艦の中という限定された空間で展開する。それにしても旧ソ連時代の軍事実話を、ハリウッドでトップスター主演の大作として映画化するとは、冷戦時代は遠くなりにけりだ……。

 実話がもとになっているという制限はあるのだろうが、この映画の脚本はあまりうまくないと思う。特に前半をもっと整理すれば、潜水艦に重大な事故が起こるまでを30分以内で済ませられたはずだ。この映画の観客は、この映画が「潜水艦事故の話」であることを知っている。ならば2時間18分の映画のうち前半分の1時間もかけて、事故以前の無駄話をしている必要はないと思う。人物関係だけを数十分でざっと整理して、ずばり本題に入った方がよほどいい。後半で活躍する人物たちをしっかり紹介しておくことで、後半のドラマを血の通った人間ドラマにしようという意図があるのかもしれないが、後半はそうした人間ドラマより、事故が致命的な結果を生み出すか否かというサスペンスだけで押し通してしまうべきだったのではないか。

 潜水艦内には艦長がふたり。艦と乗員の安全を確保しようとして時に軍や党の方針と対立するミハイル・ポレーニン艦長と、軍と党に煙たがられて副長に格下げされたポレーニンに替わり、新任の艦長として赴任してきたアレクセイ・ボストリコフだ。この映画では部下思いのポレーニンをリーアム・ニーソンが演じ、命令に忠実なあまり部下を危険にさらすし、一部から「出世の虫」と陰口をたたかれるボストリコフをハリソン・フォードが演じている。

 僕が思うにこの主演ふたりの配役は、逆の方がよかったと思う。フォードがポレーニン副長を演じれば、年長で部下からも信頼されているベテランの軍人が、自分の艦をよそから来た若い艦長に引き渡し、しかも自分がその部下として働かねばならないという複雑な人間関係が明らかになる。またニーソンのボストリコフなら、軍での出世を願っているエネルギッシュな男に見えるし、腹の中で何を考えているかわからない不気味な男も演じられるだろう。フォードは悪役が演じられない男だし、あまりにも気さくなアメリカ人の匂いが強すぎて、官僚主義のソ連軍人を演じさせるのは無理がある。フォードがボストリコフを演じても、『ケイン号の叛乱』のハンフリー・ボガートにはなれない。
 
 実録ものでセットも立派なものを作ったのだから、これはドキュメンタリータッチでゴリゴリ押していけばもっと面白くなったと思う。ロシア風の荘厳な音楽がみょうにベタベタと感情的に鳴り続けるのが、ひどく気になる映画だった。音楽を抑制するだけでも、もっとよくなるのに。

(原題:K-19 THE WIDOWMAKER)

2002年12月14日公開予定 日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画
(2002年|2時間18分|アメリカ)
ホームページ:http://www.k19movie.jp/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:K-19
サントラCD:K-19
原作:K-19(ピーター・ハクソーゼン)
ノベライズ:K-19(ルイス・ノウラ)
関連DVD:キャスリン・ビグロー
関連DVD:ハリソン・フォード
関連DVD:リーアム・ニーソン

ホームページ

ホームページへ