ピーター・パン2
ネバーランドの秘密

2002/10/17 ブエナビスタ試写室
できはイマイチだが製作意図の明快さが作品の強さになった。
導入部が素晴らしい。音楽が弱いのは仕方ないか。by K. Hattori

 ディズニーはほぼ年1本のペースで新作劇場アニメを製作しているのだが、それとは別にビデオ市場向けの低予算アニメを作っている。企画は劇場ヒット作の続編やサイドストーリーのようなものが多い。新生ディズニーアニメと呼ばれる『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』『ノートルダムの鐘』などにはすべて続編が存在するし、『シンデレラ』『101匹わんちゃん』『わんわん物語』『くまのプーさん』などにも続編が作られている。『ピーター・パン2/ネバーランドの秘密』も、そうしたビデオ向けの安易な続編として企画がスタートしたものだと思う。だがそれが結果として劇場公開されることになったのは、内容がいかにも今の時代に相応しいものになっているからだろう。

 『ピーターパン』の続編にはスピルバーグが監督した『フック』があるが、今回の映画はそれにちょっと似た趣向になっている。大人にならない永遠の子供ピーター・パンに対し、ウェンディは今やすっかり大人になり、結婚してふたりの子供のお母さんになってしまった。でも子供たちは、お母さんの話すピーター・パンのお話が大好き。ピーターとティンカーベルがロスト・ボーイズたちと一緒に海賊フック船長と戦うお話には、いつだってワクワクドキドキしたものだ。だがそんな無邪気な時代は長くは続かない……。

 時代は1940年代。第二次世界大戦が始まっている。戦時下のロンドンは連日連夜の爆撃でメチャメチャに破壊され、ウェンディの夫も妻とふたりの子をロンドンに残して出征してゆく。誰もが生きることだけに精一杯の時代だ。戦争という巨大な暴力が次々に人を傷つけ命を奪っていく時代に、誰がピーター・パンとネバーランドの物語に熱中できるというのだろうか。ウェンディの娘ジェーンは、もうピーター・パンの物語には夢中になれない。母がピーターの話をしても「そんな話は下らない」と言う。まだ小さなジェーンは、戦争の中ですっかり小さな大人のように分別くさくなってしまっている。

 この映画は明らかに、9・11以後の世界を念頭に置いている。ジェーンが爆撃に巻き込まれるシーンや空襲下のロンドンの様子には、同時多発テロにショックを受けたアメリカの姿がそのまま投影されている。こんな時代に、はたしてファンタジーは受けいられれるのか。子供のための夢物語は、今のこの時代にどれだけの力を持ちうるのか。映画の作り手たちは、この作品の中でそう自問自答している。これこそが『ピーター・パン2』を『フック』と隔てている大きな認識の差であり、映画の作られた時代の差なのだ。

 ジェーンはネバーランドに言って子供らしい心を取り戻す。どんな辛い時代でも、人間を救うのは夢と勇気なのだというメッセージ。だが今この時代には、そんな単純なメッセージこそが切実に求められているのかもしれない。

(原題:PETER PAN IN RETURN TO NEVER LAND)

2002年12月21日公開予定 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:ブエナビスタ・インターナショナル(ジャパン)
(2002年|1時間14分|アメリカ)
ホームページ:http://www.disney.co.jp/peterpan2/

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前作DVD:ピーター・パン2/ネバーランドの秘密
サントラCD:ピーター・パン2/ネバーランドの秘密
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