ウェルカム!ヘヴン

2002/10/02 メディアボックス試写室
ビクトリア・アブリルとペネロペ・クルスが天使と悪魔を演じるコメディ。
映画のあちこちにある仕掛けだけでも十分楽しめる。by K. Hattori

 人が神を敬うことを忘れてモラルが廃れた現代、天国と地獄の様子は大変なことになっていた。天国はやってくる魂の数が激減して過疎化が進み、まるでゴーストタウンのようなありさま。逆に地獄は超過密状態でパンク寸前。天国にも地獄にも、この状況を打破する何かが必要だった。その何かとは、地上にあるひとつの迷える魂。二流ボクサー、マニの魂の行方だった。天国と地獄双方の作戦本部長は、その後の自分たちの運命を決めるマニの魂を求めて、人間界にそれぞれ使者を送る。天国から送られたのは、天国のナイトクラブで夜ごとショーをこなす人気歌手のロラ。地獄から送られたのは、荒くれ男たちが集まるレストランでウェイトレスをしているカルメンだった。ふたりはそれぞれ妻や従姉妹だと称して、マニと同居生活をはじめるのだが……。

 監督は『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』のアグスティン・ディアス・ヤネス。天国からの使者ロラを演じているのは、『死んでしまったら〜』の主役だったビクトリア・アブリル。地獄の使者カルメンを演じるのは、ハリウッドでも売れっ子のペネロペ・クルス。さらに天国の作戦本部長にファニー・アルダン。地獄の作戦本部長に『アモーレス・ペロス』『天国の口、終りの楽園。』のガエル・ガルシア・ベルナルという顔ぶれ。こりゃ豪華!

 ひとりの男が天使(?)と悪魔(?)の双方と共同生活し、彼の魂を巡って両者が戦いを繰り広げるという設定から、同居している3人組の間に生じる三角関係のドラマを期待すると、これが見事にはずされてしまう。この映画では、天国と地獄の命運を握るというボクサー個人は、ドラマの中心からかなり離れた場所にいるのだ。なぜ彼の魂が天国と地獄の運命を決するのか、その理由も明らかにはされない。登場人物たちの説明によれば、こうしたつまらない些細なことが、その後の歴史を左右するものなのだとか。いわば「クレオパトラの鼻」のような存在が、このボクサーの魂ということらしい。

 映画の中心はロラとカルメンの奇妙なライバル関係にある。正反対の目的を持った2人が、いつしか互いに相手を認め合い協力しあうようになるというバディムービー型のコメディだ。このふたりのキャラクターがじつに魅力的。

 天国を'50年代風のモノクロのパリ、地獄を刑務所映画の監獄にして、使う言葉もフランス語と英語にするというひねり。サリンジャーの本や、天使と悪魔の逢い引きというアイデア。そしてロラのステージシーンも、往年のミュージカル映画みたいで楽しい。歌の開始から終了までワンカットで撮影するなどのきわどい芸が、映画の本筋とはまったく関係なく飛び出すのだからスリリングだ。クルス嬢が「カンフー・ファイティング」を踊るシーンもよいなぁ……。この手の歌と踊りを観るだけでも、この映画の価値はあるというものです。

(原題:SIN NOTICIAS DE DIOS)

2003年お正月公開 シネセゾン渋谷
配給:クレストインターナショナル、東京テアトル
(2001年|1時間48分|スペイン、フランス、イタリア)

ホームページ:http://www.crest-inter.co.jp/

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