凶気の桜

2002/09/30 東映試写室
窪塚洋介が右翼言語かぶれの不良少年を演じる青春映画。
前半は面白いけど後半がちょっと。映像は新鮮。by K. Hattori

 ヒキタクニオの同名小説に窪塚洋介が惚れ込み映画化させた、自称ナショナリストの青年を主人公にした青春映画。脚本は丸山昇一。監督は音楽ビデオ出身の薗田賢次。全身白ずくめの戦闘服を着込んだ主人公たちが、右翼系の言葉を語りながら渋谷の街を闊歩し、今どきの不良たちをコテンパンに締め上げ、それでいて誰にもこびずに自分たちの道を貫き通そうとする映画前半はなかなかに痛快。「右翼グループ=黒い車と黒の戦闘服」というイメージを逆手に取り、主人公たちに真っ白の衣装と真っ白の車を与えたのは面白い。窪塚洋介が演じている主人公の山口進などは、衣装の白いイメージを徹底させるため、私服でも白いフード付のトレーナー姿だ。

 主人公の山口は渋谷生まれの渋谷育ち。昔からの仲間である市川と小菅と3人で、特注の白い衣装を着込んで「俺の街」疾走する。他の不良グループをぶん殴って屈服させ、裕福な今どきの若造たちから金を巻き上げ、夜遊びにうつつを抜かす若い女を犯すことで、彼らは日々変貌していく渋谷の街そのものを服従させようとしているかに見える。乱暴に、しかも無造作に、民族や日本やアメリカ云々という右翼系の言葉を操りながら、基本的には勧善懲悪がコンセプトの自警団である3人組。だがそんな彼らに、本物の右翼組織が接触してくる。右翼組織の後ろにあるのは、案の定その筋の面々だ。山口は組織の会長である青田に気に入られ、それまで足を踏み入れなかった世界に入り込んでいく。

 いかにも「映像作家」が作ったらしいシャープな画像処理と、今までのやくざ映画や青春映画に登場することのなかった「民族主義の青年」という設定がユニーク。右翼というのは何となく「頭が悪く」「汗くさく」「ださい」という印象があるのだが、この映画に登場する主人公たちの洗練されたスタイルはなかなか格好がよかったりする。旧態依然とした既存の右翼や暴力団組織との対比もうまく決まっていて、この映画の前半はかなり面白く見られた。

 しかし映画の後半で主人公たちが組織のしがらみに巻き込まれていくと、この「新しい物語」も今まで通りの「やくざ映画」の変種へと落ちていく。組織に属さない自由を謳歌していたチンピラたちが、結局は大きな組織の力学に巻き込まれて自滅していく話など、これまでに何度も映画になっているのではないだろうか。これが原作にもある筋運びなのか、それとも丸山昇一という脚本家の個性なのか、それはちょっと判断ができないのだけれど……。

 結果として映画前半の持っていたスピード感が、後半になって急速に失われていくという印象は否めない。主人公の相棒である市川や小菅が自らの運命を甘受してしまう哀しさに比べると、主人公山口の人物像にも陰影が乏しいような気がするしなぁ。演じている窪塚洋介は、最近クセになっている甘ったるさが抜けていてよかったけどね。

2002年10月19日公開 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
(2002年|1時間58分|日本)

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原作:凶気の桜(ヒキタクニオ)
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