チェコアニメ新世代

2002/09/11 アミューズピクチャーズ試写室
90年代後半から作られた新しい作家たちによる新作アニメ。
チェコアニメの技術と伝統はこうして継承されていく。by K. Hattori

 人形アニメの大国チェコの最新アニメ10本を紹介するプログラム。劇場ではAプロとBプロに分けて5本ずつが上映されるが、今回のマスコミ試写ではその中から5本が上映された。今回の特集の特徴は、紹介される作家がみなとても若いこと。プロフィールを見ると、'70年代生まれという人がかなりいる。ヤン・バレイは'58年生まれ、ミハル・ジャプカは'65年生まれだが、アウレル・クリムトが'72年、ノロ・ドゥルジアクが'72年、ヤン・ブベニーチェクが'76年、ダヴィット・スークップは'74年生まれ。ヤン・バレイはプラハ工芸美術大学、残りは全員がチェコ国立芸術アカデミーの映画学部(FAMU)出身だ。どちらもアニメーション専門学科を持ち、卒業後は映画やテレビ会社で即戦力として活躍できる人材を養成するエリート校だという。

 今回観たのはジャプカ監督の『ババルーン』、ブベニーチェク監督の『海賊』、クリムト監督の『落下』、バレイ監督の『ワンナイト・イン・ワンタウン』、ドゥルジアク監督の『大いなるくしゃみ』の5本。どれもここ5年以内に作られた新しい作品ばかりだ。基本的にはどれも台詞のないサイレント。音楽や効果音、それに登場人物たちの台詞を表すうなり声や意味のないペチャクチャとした声は入っているが、きちんとした台詞になっているわけではない。いわばすべてが無言劇。パントマイムの世界なのだ。

 内容的にはかなりダークなものが多い。夫婦の痴態を眺めていた赤ん坊の頭がどんどん膨らみ、ついには気球のように大きくなって空に飛び上がるという『ババルーン』のナンセンスや、気のいい海賊がひたすらラム酒を飲み続けてご機嫌そのものという『海賊』という楽しい作品もあるけれど、それ以外の作品はどれもやけに暗い。この暗さは、チェコの民族性によるものなのだろうか。間抜けな泥棒が博物館から怪物のミイラを盗み出す『大いなるくしゃみ』も、暴力シーンがやけに生々しくてドキリとさせるのだ。物語はナンセンスで人物のデザインや動きも相当にデフォルメされているのに、それらが体臭を感じさせるほど生々しく動き回るのは少し薄気味悪く感じる。

 本来は生き物でないはずの人形が動く不思議さとグロテスクさの向こう側から、説明し要のないユーモアが立ち現れるのが『落下』と『ワンナイト・イン・ワンタウン』だろう。『落下』で屋根の上の老人がずるずると斜面を滑り落ちていくおかしさ。その老人がじつは生きていて、しかも意外やしぶとい生命力を見せ、屋根の雨樋にしっかりとしがみついて離れない驚き。これには参った。『ワンナイト〜』は27分もあるこの手の作品としては長編だが、これもグロテスクな恐怖すれすれにまで近づきながら、ギリギリのところでそれがユーモアに転じていると思う。チェコのアニメは本当にすごいよなぁ……。

2002年10月公開予定 新宿武蔵野館
配給:チェスキー・ケー、レンコーポレーション
(2001年|1時間51分|日本)

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