遙かなるクルディスタン

2002/08/01 シネカノン試写室
トルコ国内のクルド人問題を赤裸々に描いた問題作。
日本人には遠い世界の話だなぁ……。by K. Hattori

 トルコ国内のクルド人問題をテーマにした、トルコ、ドイツ、オランダの合作映画。監督・脚本はトルコ人のイエスィム・ウスタオウル。トルコでは長らく「国内にいるのはトルコ人だけであって、国内に民族問題はない」という立て前だった。イランやイラクと国境を接する国の東北部にはクルド人が暮らしているのだが、それは「トルコ語を話せない山岳トルコ人」と呼ばれた。クルド人の存在を否定し、完璧に無視する。トルコ人によるクルド人に対する差別や弾圧も、クルド人たちによる民族独立運動も、すべて「ないもの」として扱う。現に存在している人々を、社会から見えないところに追いやることで「問題は何もない」と言いくるめる。これほど大きな差別があるだろうか。

 かつて「日本は単一民族国家だ」と発言して物議を呼んだ首相がいたけれど、この映画でトルコのクルド人問題の現実を見てしまうと、「やはり日本は単一民族国家だ」と思う。この映画に登場するような「多民族国家の悲惨」や「少数民族の悲哀」を、少なくとも現代の日本人が肌で感じることはあり得ない。社会不安材料として民族問題を抱えていない日本という国は、世界の中でもかなり特殊な国と言えるのではないだろうか。

 かつてナチスドイツがヨーロッパのユダヤ人に対して行なったのと同じような差別と迫害が、トルコ国内ではクルド人に対して行なわれている。警察や民兵がクルド人を虐殺し、軍隊を動員してクルド人地区を占領し、人々を追い出してクルドの村を破壊する。村を追われたクルド人は都市部に出てくるが、彼らにまともな職はない。クルド人たちはスラムで暮らし、最底辺の貧民層を構成していくことになる。これがまた、都市におけるクルド人差別を生む。

 映画の舞台はイスタンブール。主人公は地方からこの大都市にやってきたふたりの青年だ。ひとりは西部の町ティレから来たトルコ人の青年メフメット。もうひとりは東部ゾルドゥチからやってきたクルド人のベルザン。メフメットはトルコ人だが肌が浅黒く、しばしばクルド人に間違われる。サッカー観戦の帰りに興奮した男たちからクルド人と間違えられてリンチにかけられそうになったメフメットは、たまたま近くにいたベルザンに助けられる。ふたりはこの事件をきっかけに、深い友情で結ばれることになる。

 映画の前半は都市部におけるクルド人問題を描き、後半はメフメットがベルザンの故郷を訪ねるロードムービーになるという構成。どちらもトルコ国内のクルド人問題にある程度の知識がないと話自体がわかりにくい。ただし知識があったとしても、この映画は身近に感じられかどうか……。単一民族国家に暮らす身には、民族問題はあまりに遠い世界の話。たとえ物語が理解できたとしても、それがまるで別世界のことのように思えてしまう。この映画の世界に比べると、『ロード・オブ・ザ・リング』の中つ国の方がまだ身近だ。

(英題:Journey to the Sun)

2002年秋公開予定 BOX東中野
配給:若松プロダクション・シネマスコーレ
配給協力:グアパ・グアポ
(1999年|1時間44分|トルコ、ドイツ、オランダ)

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