ジョンQ
最後の決断

2002/07/25 GAGA試写室
息子に手術を受けさせられない父親が取った最後の手段。
デンゼル・ワシントンの熱演が映画を一段格上げした。by K. Hattori

 地元の製鉄所で働くジョン・Q・アーチボルトは、不況による収入減に悩まされながらも、妻と息子と3人の幸せな生活を送っていた。だがある日、息子マイクが野球の試合中に突然昏倒する。病院で検査した結果、一刻も早く心臓移植が必要だとの診断が下される。だが「ぜひ手術を」と言うジョンと妻の要求を病院長は受け入れない。ジョンの加入している健康保険では、息子の高額な医療費を賄いきれないと言うのだ。ジョンは手術費捻出のためありとあらゆる手だてをつくすが、状況は絶望的だ。思いあまったジョンは銃を手にすると、主治医や居合わせた患者を人質にして病院に立てこもる。要求は自分の息子を移植希望者リストに載せることだったのだが……。

 主演はつい先頃アカデミー賞主演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントン。監督はニック・カサベテス。この映画のメッセージは単純だ。「アメリカの医療保険システムには不備がある」という、ただそれだけを述べるためにこの映画は作られている。主人公のジョンはごく平凡な市民生活者だ。妻にとってはよき夫、子どもにとってはよき父親、仕事に誇りを持ち、日曜日ごとに教会に通い、信頼できる友人たちも多い。不況で生活は苦しいが、それでくよくよしてもしても仕方がない。ジョンは基本的に楽天的な男なのだ。だが不況になった時、企業が真っ先に切詰めようとする支出は社員の福利厚生費だった。常に最高の補償が受けられると約束されていたジョンの健康保険は、知らぬ間に補償額の低いものに掛け替えられている。ジョンは何年も真面目に働き、何年も保険料を払ってきたのに、いざというときそれが頼りにならないことを知る。

 この映画のいいところは、病院に立てこもるという非常手段をとる前に、ジョンがありとあらゆる手を尽くしたと、観客にきちんと実感できる作りになっていること。保険会社の担当者に掛け合い、行政の医療費扶助制度を利用し、友人や地域の人たちから善意のカンパを募り、家財道具を売り払い、マスコミに窮状を訴え、病院に支払いの猶予を求める。だがそれでも、展望はまったく開けないのだ。自分は十分に努力した。だがそれでも今目の前で息子が死のうとする時、父親は他に何ができるだろう。

 これはアメリカ社会の不合理を告発する映画だが、アメリカの医療制度と無関係に暮らしている日本人にとっても感動できる映画だ。それはひとえに、主人公ジョンの息子を救いたいと願う気持ち、息子のためならどんな犠牲も厭わないという気持ちに、観客が共感できるからだろう。演じているワシントンが素晴らしい。この映画はこの俳優の力で、メッセージばかりが鼻につく社会派映画から、父と息子の絆を描くヒューマンドラマに置き換えられている。患者を治療したいと願いつつ、組織の中で薄情な制度を受け入れざるを得ない医師を、ジェームズ・ウッズが好演している。

(原題:John Q)

2002年秋公開予定 東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|1時間56分|アメリカ)

ホームページ:http://www.john-q.jp/

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