アマデウス
ディレクターズ・カット

2002/07/08 ワーナー試写室
アカデミー賞8部門を受賞した音楽ミステリー映画の傑作が再登場。
ディレクターズ・カット版はオリジナルより20分長い。by K. Hattori

 日本でも松本幸四郎や江守徹の主演で上演されたピーター・シェファーの舞台劇「アマデウス」を、『カッコーの巣の上で』や『ヘアー』など舞台劇の映画化では定評のあったミロシュ・フォアマンが映画化した作品。'84年に製作されたオリジナル版は、アカデミー賞の作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・美術賞・衣装デザイン賞など8部門を受賞して世界中で大ヒット。映画史に残るこの作品に未公開シーンなど20分の映像を付け加えて再編集したのが、今回のディレクターズ・カット版だ。上映時間は3時間ちょうど。音楽シーンはオリジナル版とほとんど同じだが、音声はデジタルでリミックスされた。

 追加シーンはモーツァルトとサリエリの確執やサリエリの内面的な葛藤など、ドラマ部分に集中している。サリエリの妨害でモーツァルトの生活がみるみる困窮していく様子が強調されているし、モーツァルトの軽薄な人間性を憎みながらも彼の音楽を愛さずにはいられないサリエリの苦悶もより掘り下げられていると思う。サリエリはモーツァルトの才能を妬む。その妬みは憎しみとなり、ついには神に対する恨み辛みとなってほとばしる。だが彼は同時に、ウィーンの保守的な音楽界の中で、自分こそがモーツァルトの才能を誰より理解しているという自負を持っている。彼ほどモーツァルトの才能を愛した男もいないのだ。彼はモーツァルトを尊敬し、愛している。愛しているがゆえに、モーツァルトを破滅の淵まで追いやりながら最後の一歩を躊躇する。彼はモーツァルトの妻コンスタンツェを汚すことができない。困窮したモーツァルトが借金を申し出てくれば、(素性は悪いとはいえ)金持ちのパトロンを紹介もする。

 サリエリのモーツァルトへの憎悪が頂点に達しながら、それが氷解してふたりが和解するのがクライマックスのレクイエム作曲場面だろう。このシーンはオリジナル版でも鳥肌が立つほど迫力のあるシーンだったが、それはもっぱらモーツァルトの頭の中から音楽がほとばしり、五線譜の上で完成形に近づいていくという面白さだった。今回はこのシーンの中心が、主人公たちの対立と和解、そして決別という心理劇に移されているように思う。20分の追加シーンは、このクライマックスをより高いレベルに引き上げるためのものだったのだ。

 映画は必ずしも歴史に忠実ではない。レクイエムの作曲を依頼したのはサリエリではないし、モーツァルト夫人のコンスタンツェがサリエリを強く憎むなどあり得ない。(モーツァルトの死後、遺児のひとりはサリエリの弟子になっているのだから。)シェファーの戯曲や映画化の成功によって19世紀以来の根も葉もない噂話が蒸し返されたわけだが、これによって忘れられていた当時の大作曲家サリエリという人物が掘り起こされた面もある。「モーツァルト殺害犯」という汚名が、彼を音楽史のビッグネームにしているのだ。

(原題:AMADEUS / DIRECTOR'S CUT)

2002年夏公開予定 テアトルタイムズスクエア
配給:ワーナー・ブラザース映画 宣伝・問い合せ:メディアボックス
(2001年|3時間|アメリカ)

ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:アマデウス/ディレクターズ・カット
サントラCD:アマデウス
オリジナル版DVD:アマデウス
原作戯曲:アマデウス
関連DVD:ミロシュ・フォアマン (2)
関連DVD:F・マーリー・エイブラハム  (2)

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ