エブリバディ・フェイマス!

2002/06/17 東宝第1試写室
2001年のアカデミー賞外国語映画賞候補になったベルギー映画。
娘を歌手にするため人気歌手を誘拐した父親の話。by K. Hattori

 しがない工場労働者ジャンの願いは、17歳になる一人娘マルヴァが歌手として芸能界のトップスターになること。大歌手からその名をもらい、赤ん坊の頃から歌が大好きだったマルヴァだが、出場するカラオケコンテストでは審査員たちになかなかその魅力が伝わらない。娘には才能があるのに、その芽を摘み取るような小言しか口にしない妻も気に食わない。だが一番の問題は、娘の才能や資質に見合う曲がないことだ。ジャンはラジカセに鼻歌でメロディを吹き込み、娘に捧げる曲を作り始める。我ながら傑作だ。若い同僚のウィリーもいい曲だと褒めてくれた。だがそんな矢先、ジャンの勤める工場は倒産して閉鎖されてしまう。これまで汗水たらして真面目に働いてきたのに、一片の通告で仕事を奪われることへの怒り。世の中には楽して儲けている連中がいくらだっているのに、なんで自分がこんな目に遭わなければならないのだ。一家を支える大黒柱として、クビになったなんて口が裂けても言えない。焦るジャンのもとに、千万分の一の偶然が訪れる。休暇中の人気歌手デビーが、偶然ジャンの目の前に現れたのだ。彼はデビーを誘拐するが、彼女のマネージャーに人質解放のための条件として持ち出したのは金ではなかった……。

 2001年のアカデミー外国語映画賞に、『グリーン・デスティニー』などと共にノミネートされたベルギー映画。不況で職を奪われた工場労働者が、愛する家族のために一肌脱ぐという『フル・モンティ』系列のコメディだが、父親の孤軍奮闘ぶりや努力の空回りぶり、あっと驚かされる意外な展開などは、この映画の方が一枚も二枚も上手だ。そもそも「娘を歌手にしたい!」というジャンの願いが、あまりにも途方もないものに思える。娘のマルヴァは声量もなく、音程もアヤフヤで、しかもインド映画のヒロインでも今どき流行らないぽっちゃり型の体型。母親が「どうせ才能なんてないんだから、夢なんて捨てて実直な生き方を」と願う気持ちもよくわかる。人気歌手の誘拐もその場の思いつきで、出たとこ勝負の穴だらけなもの。ところがこれがジャンの思惑を大きく離れて、思わぬところに転がりはじめるという面白さ。このストーリーはものすごく面白い。演出のテンポが悪いのか、演出のテンポとこちらの感受性がいまひとつ噛み合わないのか、残念ながら僕はこの映画をあまり面白いとは思わなかった。でもこの話だけはものすごく面白い。その面白さが演出のぬるさを補っている。

 これは話が面白いから、誰かが原作権を買って日本バージョンを作ればいい。ベースはホームドラマで、そこに芸能界の舞台裏、歌と踊り、誘拐事件がからむのだから、脚本と配役さえしっかりすれば、オリジナル版の映画程度の面白さはすぐに作り出せる。むしろオリジナル版より面白い、翻案映画を作ることができるだろう。韓国映画を翻案して『リメンバー・ミー/時の香り』や『カタクリ家の幸福』を作る日本映画界は、このベルギー映画にぜひ注目すべきです。

(原題:Iedreen Beroemd!)

2002年夏公開予定 シャンテ・シネ
配給:アルシネテラン
(2000年|1時間35分|ベルギー、フランス、オランダ)

ホームページ:http://www.alcine-terran.com/

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