トスカ

2002/06/10 東京日仏学院エスパスイマージュ
プッチーニの名作オペラをブノワ・ジャコが映画化。
主演はA・ゲオルギューとR・アラーニャの夫婦歌手。by K. Hattori

 プッチーニの有名な同名歌劇を、フランスの映画監督ブノワ・ジャコが映画化したもの。プロデューサーのダニエル・トスカン・デュ・プランティエは、これまでにも『ドン・ジョヴァンニ』『パルジファル』『カルメン』などを製作している人物。出演はヒロインのトスカ役にアンジェラ・ゲオルギュー(ソプラノ)、恋人の画家カヴァラドッシを演じるのはロベルト・アラーニャ(テノール)、トスカに横恋慕する警視総監スカルピアにルッジェーロ・ライモンディ(バス・バリトン)。指揮はアントニオ・パッパーノ。

 物語の舞台は1800年のローマ。ナポレオン軍との戦いや独立運動の台頭で政情は不安定だが、カヴァラドッシとトスカのカップルにとって政治は遠い世界の話だった。だがカヴァラドッシが政治犯として追われる旧友を匿ったことから、警視総監スカルピアは彼を逮捕し拷問責めにする。スカルピアはトスカに対して、恋人を助けたければその代償はお前の体だと迫る。恋人を助けたいが、かといってスカルピアの言葉通りにすれば恋人を裏切ることになるというジレンマに苦しむトスカは、そばにあったナイフでスカルピアを刺し殺し、彼の手から逃走のための通行証を取り上げて牢獄に向かうが……。

 映画は単なる「オペラの映画化」ではなく、録音風景などのメイキング風景も織り交ぜて進行していく。事前に録音された歌声にあわせ、セットの中で歌手が演技していることをあえて強調しているのだ。セットはスタジオ内に大道具を配置し、背景を黒くつぶした舞台劇風のもの。こうした演出により、この作品は否応なく観客に「作り物」としての映画を意識させる。登場人物たちがすべての台詞を歌で表現するというオペラは、ただそれだけでも「作り物」であることを観客に意識させてしまう。そこに他の「作り物」の要素を何重にもかぶせていくことで、逆に「作り物」としてのオペラの特殊性が相殺されていく。メイキング風景のざらついた画面。カットバックの手法。第3幕に移行する際使われる、フィルムの逆回しなどの特殊な効果。これらもすべて、映画の虚構性とオペラの虚構性をぶつけ合わせ、そこからドラマの真実を引き出そうという意図に他ならない。

 ブノワ・ジャコ監督はこの映画をトスカの心理劇として描こうとしているようで、スカルピアに誘惑されて究極の選択を迫られたトスカが有名なアリア「歌に生き、恋に生き」を切々と歌い上げるシーンなどはまさに圧巻。もちろんこのシーンは原作オペラでもクライマックスなのだろうけれど、映画はこのアリアでトスカの顔ぎりぎりまでカメラを寄せ、その表情をつぶさにスクリーンに映し出すことで迫力を増していると思う。こうしたトスカのクローズアップは、第3幕のカヴァラドッシ銃殺シーンでも残酷なほどの効果を上げている。

 ただしこの映画、クローズアップが多すぎる。映画全体におけるクローズアップ比率が、これほど多いと感じられる映画は珍しいのではないだろうか。少し息苦しい。

(原題:TOSCA)

2002年今秋公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:アルシネテラン
(2001年|2時間6分|フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)

ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/

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