エイゼンシュテイン

2002/05/28 TCC試写室
『戦艦ポチョムキン』で映画に革命を起こしたエイゼンシュテイン。
その生涯を安っぽく映像化した伝記映画。by K. Hattori

 映画を学ぶものなら誰でも一度はお勉強のために観る映画に、セルゲイ・エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』がある。乳母車が階段を転げ落ちていくシーンは映画史に残る名場面として、数多くの映画に引用されているから知っている人も多いだろう。映画『エイゼンシュテイン』は、そんな映画を作った男の伝記映画だ。エイゼンシュテインの伝記映画だから当然ロシア映画なのかと思うとさに非ずで、これはドイツとカナダ合作の英語作品になっている。劇中ではエイゼンシュテインが監督した『アレクサンドル・ネフスキー』や『イワン雷帝』などの映画も引用されるのだが、これらも全部英語吹替え版になっている。なんだかすごく違和感が……。

 物語はエイゼンシュテインが戦争から戻ってきた'20年代初頭から、若き映画の天才として頭角を現す時期を経て、失意に終った世界遍歴、そしてスターリン独裁下での映画製作、独裁に反発しつつ心臓発作に倒るまでを描いている。主人公エイゼンシュテインを演じているのは、サイモン・マクバーニーという役者。監督はこれが長編デビュー作のレニー・バートレット。世界的に有名な人物を映画化する際、それを歴史の中で相対的に位置づけていく方法や、幾多の業績を映画の中に盛り込みながらその裏話を描いていく方法、一般に知られている業績をあえて映画から遠ざけて人間像を掘り下げていく方法など、いろいろなアプローチの仕方が考えられる。しかしこの映画は、切り込み方がどれも中途半端。一番悲しくなるのは、この映画がどうしようもなく低予算で作られているらしいことだろう。エイゼンシュテインが映画を撮っているシーンが幾つかの場面で再現されているのだが、その現場にはスタッフ数名と、せいぜい10人そこそこの役者しかいないのだ。これじゃ素人の自主製作映画ではないか。それでいて、エイゼンシュテインが撮影後のラッシュを回し始めると、そこには画面を埋め尽くす膨大な数の群衆が……。

 これはもう、詐欺みたいなものです。お金がなくて、膨大な数のエキストラを使った撮影現場が再現できないのはわかる。だったらもっと別のアプローチ方法を考えて、エイゼンシュテインの撮影現場を再現することなく、エイゼンシュテインの仕事ぶりを再現する方法を考えればいいのだ。例えば現場には直接タッチしない編集スタッフや映写技士を狂言回しにするとか、巧みに編集された作品を一度カットごとにばらばらにして、撮影時の様子を再構成してみるとか。金がないなら知恵を出せ!

 映画はエイゼンシュテインの心理状態を深く掘り下げることに力を注いでいるようだが、これもだいぶ中途半端なものに感じた。切り込んでいくとき、刃先がぶれていて弱々しいのです。例えばエイゼンシュテインの同性愛傾向について描くにしても、スターリンへの反発を描くにしても、それがエイゼンシュテインのどんな気持ちから発しているものなのかわかりにくい。作り側に自信がないまま、とりあえず作ってしまった感じだなぁ。

(原題:EISENSTEIN)

2002年7月下旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ツイン、スローラーナー 問い合せ:スローラーナー

(上映時間:1時間40分|ドイツ、カナダ)

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