ダスト

2002/05/27 松竹試写室
マケドニア独立戦争を舞台にした兄弟確執のドラマ。
人は死んで塵になっても物語は生き続ける。by K. Hattori

 デビュー作『ビフォア・ザ・レイン』でベネチア映画祭金獅子賞を受賞したミルチョン・マンチェフスキー監督が、7年ぶりに製作した監督第2作目。脚本と準備に5年をかけたという本作もまた、時空を越えた壮大な愛のドラマだ。物語は現代のニューヨークから始まる。ニューヨークのアパートの部屋に空き巣に入った黒人青年エッジは、留守だと思っていた部屋に老婆がいることに驚く。逃げようとするエッジを老婆は銃で脅し、ひとつの物語を語り始めるのだ。それは今から100年前にさかのぼる、ひと組の兄弟の物語。アメリカ西部に暮らすルークとイライジャの兄弟は、娼館でフランス人娼婦リリスと知り合い心を奪われる。一途なイライジャは彼女とベッドを共にしてしばらく後、彼女と結婚した。兄のルークはそんなふたりを故郷に置いたままヨーロッパに渡り、流れ付いた先はマケドニア。当時オスマントルコから独立しようとしていたマケドニアでは、独立運動家たちの首に多額の賞金がかけられていた。ルークは「教師」のあだ名される男の首を求めて、マケドニアに集まったならず者たちと行動を共にしていた。だがそんなルークを追って、アメリカから弟イライジャもマケドニアにやってくる。兄の命を狙う弟。なぜ弟は兄を殺そうとするのか? リリスはどうしたのか? だがそこで、老婆の物語は突然中断する。心臓発作を起こした老婆を抱えて、エッジは病院まで同行するのだが……。

 映画の中心は老婆の語る「ルークとイライジャの物語」だ。ルークを演じるのはオーストラリア人俳優のデヴィッド・ウェンハム。弟イライジャを演じるのは、『恋に落ちたシェイクスピア』のジョセフ・ファインズ。兄弟を翻弄するフランス人娼婦リリスを演じているのはアンヌ・ブロシェ。物語の聞き手となるエッジを、『恋の骨折り損』のエイドリアン・レスターが演じる。タイトルの「ダスト(塵)」とは、人間の遺灰のことであり、ひいては人間そのもののことを指す。『汝は塵なれば塵にかへるべきなり(創世記3:19)』とか、『皆塵より出で皆塵にかへるなり』(傳道之書3:20)と聖書にある。人間は神が塵から作り出した。人間は死ねばもとの塵に戻る。人間存在を「塵に過ぎない」と断言してしまう、強烈なニヒリズム。だが人間が死んでも、物語は残る。ルークとイライジャは死ぬ。だが彼の物語は老婆の口を通じてエッジに伝えられ、エッジを通してまた別の誰かに伝えられる。その物語が「事実」かどうか、そんなことはどうでもいい。しょせん人間は塵なのだ。

 映画の持ち味はマケドニアを舞台にしたウェスタンムービーといった感じで、激しい銃撃戦が何度も登場する。だがその描写の残酷で陰惨なこと。サム・ペキンパーの残酷描写には独特の美学があったけれど、この映画の殺戮シーンには血糊と硝煙のリアリズムしかない。映画が持つ詩的なムードが、このリアリズムでかなりぶち壊しになっている面があると思うんだけど……。僕は監督の前作『ビフォア・ザ・レイン』の方が好きかな。

(原題:DUST)

2002年夏公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:松竹

(上映時間:2時間4分|イギリス、ドイツ、イタリア、マケドニア)

ホームページ:http://www.shochiku.co.jp/dust/

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