ミスター・ルーキー

2002/04/16 ニュー東宝シネマ
長嶋一茂がサラリーマンとプロ野球選手の二足のわらじを履くコメディ。
試合シーンの迫力にすべての欠点が吹き飛ぶ快作。by K. Hattori

 阪神タイガースの地元・甲子園球場にだけ現れる、謎の覆面リリーフ投手「ミスター・ルーキー」。その正体は、ビール会社に勤めるごく普通のサラリーマンだった。こんな馬鹿馬鹿しい設定のドラマだけれど、そもそも映画なんてものは、馬鹿馬鹿しい絵空事をさももっともらしく描いてナンボの娯楽産業。話が馬鹿馬鹿しい部分を、いかにディテールでそれらしく描くかが勝負になる。この映画はそのあたりにアレコレ工夫を凝らして、きちんとそれらしく描いている点に好感が持てる。

 「え!こんな人がプロ野球のピッチャーに?」という設定の映画には、ダニエル・スターン監督の『がんばれ!ルーキー』という映画があった。これは小学生の男の子が剛腕投手になってしまうというコメディ。それに比べたら、元高校球児が肩の故障を治して自主トレし、プロのマウンドに立つという話の方が「あり得そう」に思える。マリナーズの佐々木投手の活躍などもあって、日本の野球ファンの中にも「先発して完投するのが偉い」という意識がなくなっているのも、この映画の成立を助けていると思う。サラリーマンが兼業でプロ野球選手になり、先発ローテーション入りするのは物理的に不可能だ。でもストッパー役なら務まるかもしれない。少なくとも時間的な無理はない。これがアイデア賞。

 荒唐無稽なアイデアだが、舞台を阪神タイガースという実際のプロ球団にすることで、現実と接点を持たせている。撮影に協力したセリーグの他球団も偉い。ライバル球団・東京ガリバーズは誰がどう見たってジャイアンツなんだけど、ここだけは映画のために名前を貸さなかった。なんともケチくさいなぁ。プロ野球人気が大リーグやサッカーに押されて落ちている今こそ、球団の盟主としてこういうときこそ積極的に協力し、最後の試合シーンのために東京ドームを貸しちゃうぞ、ぐらいの太っ腹ぶりを披露してくれてもいいのにねぇ。

 話としては予想できる展開で、新鮮さはほとんどない。竹中直人と橋爪功の不自然な関西弁や、宅麻伸や山本未来のいかにもな敵役ぶり、さとう珠緒と吹越満のいい加減なテレビ取材コンビ(特ダネのためならチチぐらい揉ませんかい!)、國村隼の金髪など、なんだかなぁという描写も多い。しかしそうした細かな落ち度を吹き飛ばしてしまうのが、甲子園にぎっしりと観客が入った試合シーンの臨場感。嘘っぽいとか、リアリティがないとか、つまらないエピソードがあるとか、ご都合主義とか、そういうネガティブな批判をすべて粉砕してしまう、圧倒的なスケール間がそこには存在するのだ。

 監督は『[Focus]]』『破線のマリス』などの映画で知られる井坂聡。この監督はシリアスな映画でいきなり高く評価されてしまったわけだけれど、じつはこの映画や前作『ダブルス』のような、ちょっとユーモアのある映画で本領発揮するタイプなのかもしれない。デビュー作の『[Focus]』だって、やらせ取材のドタバタが面白かったわけだしね。パート2に期待。

2002年3月23日公開 ニュー東宝シネマ他、全国東宝洋画系
配給:東宝

(上映時間:1時間58分)

ホームページ:http://www.mrrookie.com/

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主題歌:バカだから(「ウルフルズ」収録)

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