映画・クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦

2002/04/14 イイノホール
戦国時代にタイムスリップした野原一家が大軍勢を前に大活躍。
なんと時代考証もしっかりした本格時代劇なのだ。by K. Hattori

 映画版『クレヨンしんちゃん』の第10作目。僕は第6作目の『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』からこのシリーズにはまり、昨年の『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』を昨年の邦画ナンバーワンと断言してはばからないこのシリーズのファン。昨年が大傑作すぎたのでその次は苦しかろうと思っていたら、今回もなかなか素晴らしい出来で、大いに笑い、時にホロリとさせられました。タイトルからもわかるとおり、今回しんのすけは戦国時代にタイムスリップする。このシリーズは第3作目の『雲国斎の野望』でも時代劇をやっていたけれど、今回は黒澤明ばりの本格時代劇になっている。『クレヨンしんちゃん』と本格時代劇? なんだかミスマッチな感じもするけれど、それがちゃんと成立してしまうすごさ。

 前作『オトナ帝国』でも、よく聞かれる批判は「これが子供にわかるのか?」だった。前作を東宝の試写室で観た僕も、正直言ってそう感じていた。今回の『アッパレ!戦国大合戦』も、詳細に描かれる戦国時代の生活描写や合戦のディテール、時代劇特有の言葉遣い、黒澤映画へのオマージュなど「はたして時代劇慣れしていない今の子供に通じるのか?」と大人たちが心配しそうな部分は多い。だがこうした心配は、大人たちの勝手な思いこみなのだ。僕は今回これを一般試写で観たので、会場の半数以上は幼児か小学校低学年のお子様ばかり。それが映画のあちこちでゲラゲラ大笑いしている。時には会場全体が揺れるような爆笑が起きるのだ。しかも子供が笑うところでは、ちゃんと大人も笑う。大人が笑う場面では、一緒に子供たちも笑っている。笑いのポイントにほとんど差がない。黒澤映画『隠し砦の三悪人』から引用した「裏切り御免!」は、大人にも子供にも通じていなかったようでシーンとしていた。ちと寂しい。でもまぁ、黒澤映画の認知度などこの程度のものか……。

 子供向きのギャグアニメとあなどるなかれ。この映画に出てくる合戦シーンのリアリティには、時代劇が好きな人も思わず唸るはず。最初に登場する合戦シーンは一方がもう一方を徹底的に切り伏せる殲滅戦ではなく、衝突後に陣形が大きく崩れて敗走し始めるとそこでおしまい。信長が銃の三段構えを考案する前の鉄砲は、まさにこうやって使っていたのだろうし、銃や弓矢のあとに投石部隊が出てくるのも面白かった。城に招待されたしんのすけが未来の春日部について語ると、老城主が戦乱の世で国で生きなければならない虚しさを語る場面もいい。戦いの虚しさをいくら悟ったとしても、戦乱の世ではその習いに従って生きるしか道はないのだ。このシーンはそのまま、現代の平和な日本に生きる我々がいかに幸福なのかを教えてくれている。

 映画としては、野原一家の活躍と春日城を舞台にした悲恋物語がやや分裂気味だし、春日部防衛隊の活躍が少なかったのも少々寂しい。ラストは黒澤の『乱』だけど、黒澤映画が強烈な虚無感で幕を閉じたのと違い、この映画は青空に浮かぶ雲に未来への希望を託す。感動した!

2002年4月20日公開予定 日劇2他・全国東宝系
配給:東宝

(上映時間:1時間35分)

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