プロミス

2002/04/12 シネカノン試写室
混迷の続くパレスチナで暮らす少年少女たちのインタビュー集。
この映画に登場した子供たちは今どうしているだろう。by K. Hattori

 '93年にイスラエルとPLOが相互承認し、パレスチナ暫定自治共同宣言に調印(オスロ合意)したとき、世界中の人が「これで中東に平和がやってくる」と胸をなで下ろした。だがその後、イスラエル社会は急速に右傾化。'01年の選挙では首相に就任したシャロンは、今年4月にヨルダン川西岸のパレスチナ人事地区に軍隊を進めて、彼の言う「武装勢力」や「テロリスト」を軍事力で一掃する作戦を進めている。アメリカが仲介に入ろうとしているし、国連のアナン総長も多国籍軍派遣を要請しているが、現在のところ先行きは不透明だ。

 映画『プロミス』は、イスラエルとパレスチナ双方に和平ムードが漂っていた1997年から2000年にかけて、エルサレムとその近郊に住む7人の少年少女にインタビューしたドキュメンタリー映画だ。彼らはこの映画の中で、それぞれの立場から自らのアイデンティティや政治情勢について語る。テレビのニュース解説ではパレスチナ問題を「そもそも2千年前に」などと大上段に語りがちだが、この映画では現地に住む子供たちの口から、パレスチナ問題が自分たちの身の回りの現実として語られるのが新鮮であり、時には衝撃的ですらある。パレスチナ人の子供はユダヤ人を憎み、ユダヤ人の子供はパレスチナ人を憎む。誰が教えなくても、彼らの生活の中ではそう考えるのがごく当たり前の環境になっているのだ。友だちがテロの犠牲になったと言うモイセ。友だちの弟がイスラエル兵に射殺されたというファラジ。サナベルの父は政治犯として投獄されている。

 深刻なテーマの映画だが、思わず笑ってしまうような場面も多い。ユダヤ人少年が旧市街でパレスチナ人少年と出会い、カメラの前でゲップ合戦が始まるシーンの面白さ。「ユダヤ人なんて大嫌い」と言う少年が、映画を撮っている監督もユダヤ人だと聞かされてひどく困った顔をする場面も面白い。要するに「ユダヤ人は嫌い!」「パレスチナ人なんて嫌い!」と言っている彼らも、個人的には「嫌いな人々」とほとんど接触したことがないのだ。記号としての「ユダヤ人」や「パレスチナ人」に、彼らは敵意をむき出しにする。ほとんど普段はまったく接触のなかったユダヤ人の少年とパレスチナ人の少年少女たちが、映画スタッフの仲介で1日だけの交流を持つ場面は感動的だ。大人たちは政治の場でいがみ合っているけれど、子供たちはごく自然に一緒に食事をし、一緒にサッカーボールを蹴り合い、笑いながら取っ組み合いをする。楽しい1日が終ったとき、涙々で別れを惜しむ子供たちの姿に、思わずもらい泣きしそうになる。これがこの映画の中で、もっとも感動的な場面だと思う。

 この映画の中に描かれたつかの間の平和は、今はまったく失われて出口は見えない。この映画に登場した少年少女たちは、混迷の中で今何を考えているだろうか。そもそも彼らは、今も無事に生きているのだろうか。この映画を観て彼らに親しみを感じてしまった者にとって、現在の中東情勢はもはや他人事とは思えない。

(原題:Promises)

2002年初夏公開予定 BOX東中野
配給:アップリンク

(上映時間:1時間44分)

ホームページ:http://www.uplink.co.jp/film/promises/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:プロミス
関連書籍:パレスチナ問題

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ