さすらいのカウボーイ

2002/03/27 映画美学校第1試写室
ピーター・フォンダが1971年に撮った初監督作品。
ヴィルモス・ジグモンドの撮影がきれい。by K. Hattori

 1971年にピーター・フォンダの初監督作品として作られた西部劇の、デジタルリマスタープリントによるディレクターズカット版。30年前の作品を単に修復したのではなく、音楽をいくつか新曲に入れ替えたり、シーンを削ったり、エンドクレジットを新たに作り直すなどの再編集作業をしている。そんなわけでこの作品のクレジットは、「2001年度作品」になっているのだ。監督・主演はピーター・フォンダ。共演はウォーレン・オーツとヴェルナ・ブルーム。脚本は『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』のアラン・シャープ。撮影は後にアカデミー賞を受賞するヴィルモス・ジグモンド。

 物語の舞台は19世紀末のアメリカ西部。流れ者の気ままな暮らしを送ってきたハリーは、カリフォルニアに行くという仲間ふたりと別れて家に帰りたいと言い出す。気ままな自由人としての暮らしにももう飽きた。疲れたのだ。この生活に飛び込んだときは20代の若者だったハリーも、今はヒゲや髪に少し白いものが混じる年になっている。長年共に旅をしてきた相棒アーチは寂しそうだが、ハリーの決意が固いことを知って、若いダンと共にカリフォルニアに行くと言う。流れ者には別れが付きものだ。だが明日は別れるというその日の夜、訪れた町でダンが町の顔役サムに殺される。夜のうちにダンの埋葬を済ませ、サムに復讐の銃弾を浴びせるハリーとアーチ。ハリーは家に戻るが、妻のハンナは彼をなかなか夫としては受け入れない。「使用人でもいいから置いてくれ」と言うハリーは、アーチと共にハンナの家で働き始める。だがある日町に出たアーチは、ハンナについての悪い噂話を聞きつけた。彼女は雇っている使用人たちと、これまで何度も寝たことがあるというのだ。問いつめるハリーに、ハンナはそれを事実だと認めるが……。

 大ヒット作『イージー・ライダー』の直後に製作された映画だが、同系統の映画を望む映画会社はこの映画に失望し、批評家のウケは良かったものの公開規模がきわめて小さなものになってしまったのだという。プレス資料の中で川本三郎さんはこの映画が『当時のアメリカが、ベトナム戦争の泥沼化によって、建国以来の理想を失ってしまったという喪失感から生まれている』と指摘している。確かに同時代の人から見れば、そういうことになるのかもしれない。しかし同時にこの映画は、個人の自由と権利を何よりも尊重した時代の終わり、人々が家庭へ回帰していくという、'80年代意向のアメリカの価値観を10年先んじて描いた作品にも見えるのだ。これは一見すると伝統的な価値観への回帰に見えるし、革新から保守へという逆戻りにも見える。映画の中で「家に帰る」と言うハリーをダンとアーチが不思議な目で見るのは、まさにそうした「逆戻り」を彼らが感じたからだ。

 この映画は個人の自由が行き止まりまで進んでしまえば、そこにあるのは一種の虚しさであることを描く。だがそこから伝統的価値観にすんなり戻ることも出来ない。ハリーの挫折は、結局そういうことなんだと思う。

(原題:The Hired Hand)

2002年7月下旬公開予定 シネセゾン渋谷
配給:クレストインターナショナル

(上映時間:1時間31分)

ホームページ:http://www.crest-inter.co.jp/

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