冷戦

2002/03/13 TCC試写室
イーキン・チェンが主演する『カリートの道』型の定番ヤクザ映画。
カレン・モクが昔の恋人役で出演。歌もうたう。by K. Hattori

 組織のために死にものぐるいに働きながら、刑務所の中でヤクザ稼業につくづく嫌気がさしたロン。父親を悲しませた。恋人も辛い目に遭わせた。今度こそ堅気になって人生をやり直したい。自分にだって、まともな暮らしはできるはずだ。そう考えた彼は身ひとつで香港に戻ると、かつての仲間で今は足を洗っている親友ホンの経営する食堂で働き始める。だがロンが香港に戻ったと知って、かつての子分たちが彼を慕って集まってくる。組織の親分衆は、人望のあるロンが組を立ち上げれば、直接自分たちの稼ぎに影響が出るに違いないと戦々恐々。だがロンは彼らに対し、自分はもう二度とヤクザの世界に戻る気はないと宣言する。かつての恋人ヘレンとの間に生まれた子供シウロンを押しつけられたロンは、この子供のためにも平和な暮らしを守ろうと心に誓っている。だがかつてロンと過ごした刺激的で華やかな生活が忘れられないヘレンは、ロンがヤクザ稼業に戻れるようにと危険な策略を巡らす。ロンの周囲には彼自身の思いとは裏腹に、きな臭い空気が漂い始める……。

 ヤクザから足を洗いたいのに、過去の因果が巡り巡って主人公を嫌な稼業に縛り付け続けるという、ヤクザ映画の定番ストーリー。主人公ロンを演じるのはイーキン・チェン。'90年代半ばに『古惑仔』シリーズで暗黒街の若きリーダーを演じていた彼にとって、「昔は暴れ回ってたけど、今は堅気さ」というロンはまさに打ってつけの役。今回は6歳の息子がいる父親という新しい役柄にも挑戦し、今まで以上に人間的な深みのある演技を見せていると思う。ハンサムで体がよく動くというだけではない、大人の役者としての魅力が感じられるようになった。監督は『星願/あなたにもういちど』のようなファンタジー・メロドラマから、『ヴァーチャル・シャドー』『東京攻略』のようなアクションものまでこなすジングル・マー。この映画はアクションもあるメロドラマなので、この監督の資質には合っているのだろう。主人公の元恋人を演じるのはカレン・モク。親友ホンを演じるのは『ザ・ミッション/非常の掟』のラム・シュ。ロンに想いを寄せる女性教師役に、この映画がデビュー作だというレイン・リーが扮している。

 物語自体はありきたりなものだが、この映画はドラマのポイントを「父親と息子の関係」に置いているところがミソ。同じ話でも、主人公と恋人の関係に焦点を当てると『カリートの道』になる。このあたりが、アメリカ人と中国人の感性の違いだろうか。僕が日本人の感性を代表しているとも思わないが、僕はこの映画の「父と息子」の関係に一定の共感を覚えつつも、それにどっぷりとはまりこんでしまうこともなかった。むしろイーキン・チェンをはさんでカレン・モクとレイン・リーの三角関係が発生しながら、それをまったく解消しないままラストシーンまで引っ張ってしまうあたりに、物足りなさや歯切れの悪さも感じてしまう。決着の付け方に不満があるわけではない。これはやはり感性の違いかな。

(原題:九龍冰室 Goodbye Mr. Cool)

2002年5月25日公開 キネカ大森
配給:グルーヴコーポレーション 宣伝:ライスタウンカンパニー

(上映時間:1時間41分)

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