この素晴らしき世界

2002/03/06 松竹試写室
第2次大戦末期のチェコでユダヤ人青年を匿った夫婦の物語。
ハラハラ、ドキドキ、クスクス、ゲラゲラ。傑作。by K. Hattori

 1939年。ドイツ第三帝国はチェコを自国に併合し、スロバキアを自国の保護下に置いていた。これ以前から続いていたユダヤ人に対する迫害は、これによってドイツ国内同様に本格化し、多くのユダヤ人たちがポーランドの死の収容所へと送られていく。1943年。チェコの小さな町に住むヨゼフの家に、収容所を脱走したユダヤ人青年ダヴィトが逃げ込んでくる。戦前に彼の父親と親しくしていたヨゼフは、妻マリエと相談して彼を匿うことにした。ユダヤ人逃亡に手を貸したことがばれれば、どのみち厳罰は免れない。一夜の宿を貸すのも、家の奥にしつらえた隠し部屋に匿い続けるのも同じく危険なのだ。なまじ彼を外に出して捕らえられでもしたら、かえってヨゼフたちに危険が及ぶ。しかし問題はヨゼフ宅にしばしばやってくる、ホルストというナチス協力者の男にある。彼はヨゼフの妻マリエに想いを寄せており、何かと理由をつけては出し抜けにヨゼフ宅を訪問するのだ。ヨゼフ宅にユダヤ人が匿われていると知ったら、彼は迷うことなくドイツ軍に密告するに違いない。

 一昨年にチェコで公開されるや大ヒットを記録し、チェコ国内でその年の主要な映画賞を総なめにしたという作品。世界中の映画祭に出品されてさまざまな賞を受賞し、アカデミー賞の外国映画賞にもノミネートされている。監督のヤン・フジェベイクは1967年生まれ。原作と脚本のペトル・ヤルホフスキーは'66年生まれだというから、まだふたりとも30代半ばの若さ。芝居の要所要所にウォン・カーウァイめいたコマ延ばし技法を使ったりしているのは、フジェベイク監督が紛れもなく「今の監督」であることを示している。

 映画のプロローグで、1937年、'39年、'41年と、2年ごとに小さなエピソードを重ね、その間の国情の変化や人間の浮き沈みを描いたのは見事。本格的なドラマはさらにその2年後の1943年から始まり、連合軍によってチェコが解放されるまでを描いていく。戦争末期のこの時代は、主人公たちの周囲も暗雲に包まれている。ましてや主人公たちはユダヤ人を匿っているため、常に監視や密告に怯えて暮らす毎日だ。だがこの映画はそんな暗い日々を、ユーモアたっぷりに描いていく。もちろんそのユーモアは常に微苦笑混じりで、時に苦々しいものなのだが、それでも思わず「ウフフ」と笑ってしまうエピソードがてんこ盛り。この映画をあえてジャンル分けすれば、コメディに分類するしかないだろう。

 主人公夫婦の名前がヨゼフ(ヨセフ)とマリエ(マリア)で、逃げ込んでくる青年の名前がダヴィト(ダビデ)というわけで、この映画がこの家を聖家族になぞらえていることがわかる。ところがこの映画にはさらに一波乱あり、最後はクリスマス・ページェントさながらのキリスト生誕劇になるのだ。マリエは父親なしに子供を生み、生まれた赤ん坊は外国から来た訪問客を迎え、人々の罪は許され、死者は復活する。こうして聖書の物語は、2千年の時を経て現代に蘇る。なんとも痛快!

(原題:MUSIME SI POMAHAT)

2002年6月29日公開予定 岩波ホール
配給:大映

(上映時間:2時間3分)

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原作:この素晴らしき世界

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