父よ

2002/02/27 メディアボックス試写室
『穴』『冒険者たち』の原作者ジョゼ・ジョヴァンニの自伝映画。
死刑判決を受けた息子を救った父親の奮闘。by K. Hattori

 ジャック・ベッケル監督の『穴』や、ロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』の原作者であり、自身も映画監督として数々の映画を製作しているジョゼ・ジョヴァンニが、自分自身の書いた自伝を脚色・監督した作品。タイトルからもわかるとおり、映画は若き日の監督と父親の関係に焦点を当てている。死刑の判決を受けて刑務所に収監されている若き日のジョヴァンニ監督と、彼を死から救い出そうと手を尽くす寡黙な父。父は刑務所前のカフェに通い詰めて内部の情報を集め、しばしば息子の様子を見るため面会に通う。だが彼は息子に、自分がしていることを何も伝えようとはしない。自分ができることを探しては、ただ黙々と足を棒にして歩き続ける。やがて言葉の端々や回想シーンから、ジョゼが刑務所に入るに至った事件の詳細も明らかになってくる。ジョゼがなぜ父親を軽蔑しているのか、なぜ父が息子に自分のしていることを伝えようとしないのかも明らかになる。

 映画の実質的な主人公は、物語の語り手であるジョゼではなく、ひたすら息子を救おうと努力を続ける父親だ。演じているのはテレビの「新・メグレ警視」シリーズに主演しているブリュノ・クレメール。息子のジョゼを演じるのは、『サルサ』『赤ずきんの森』のヴァンサン・ルクール。死刑囚を救うため刑務所の外にいる人たちが奮闘するという映画はずいぶんあると思うが、その場合「冤罪で死刑判決を受けた囚人の無罪を証明する」というパターンが圧倒的に多いと思う。しかしこの『父よ』では、青年ジョゼが強盗殺人事件に関わっていたことは間違いなく、少なくとも事実関係について争うところは何もない。しかしそれでも、父は息子を救おうとせずにはいられないのだ。ふたりの息子がどちらも犯罪の世界に入り、上の息子は殺されている。この上、下の息子まで取られたくはないという親心。息子がぐれたのは自分の育て方が悪かったのではないか、そもそも自分の仕事や生き方自体が、息子に悪影響を与えたのではないかという負い目もある。まだ世の中を何も知らない18歳の息子が罪を犯したのは4年前だ。それが22歳になった今、いつ訪れるかわからない死に怯えながら刑務所の鉄格子の中で暮らしているのだ。

 映画は非常に地味だ。隠された新事実も出てこなければ、死刑執行寸前の逆転無罪もない。しかしその淡々とした物語の中に、人間の喜怒哀楽の感情や大小さまざまな心理的葛藤が凝縮している。父親のキャラクターが絶品です。父親はプロのギャンブラーなのですが、ポーカーをしている時と同じように、どんな苦しい時も辛い時も、決してその心の内を表情に出そうとはしない。表情を曇らせたり、少し声を荒げてみせるのも、どこまでが本心でどこまでが計算された演技なのかわからないような、非常に懐の深い男です。映画の前半では、時として彼の態度が冷淡に見えるほどなのです。しかし映画の終盤になると、ポーカーフェイスのこの父親の中に、激しく燃え上がる情熱が見えてくるのです。

(原題:MON PERE)

2002年6月上旬公開予定 シャンテ・シネ
配給:セテラ・インターナショナル

(上映時間:1時間55分)

ホームページ:http://www.bacfilms.com/monpere/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:父よ
原作:父よ(白亜書房)
関連書:穴
検索結果:ジョゼ・ジョヴァンニ
検索結果:ジョゼ・ジョバンニ

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ