光の旅人

2002/02/14 日本ヘラルド映画試写室
遠い宇宙からきた宇宙人と名乗る男の正体は何者か?
主演はケビン・スペイシーとジェフ・ブリッジス。by K. Hattori

 ラッシュアワーのニューヨーク。その雑踏の中に突然現れたひとりの中年男が、警察に保護されて精神病院に送られてくる。プロートと名乗るその男は、1000光年離れた琴座のK-パックス星からやってきた宇宙人だという。典型的な妄想症の患者に見えたその男だったが、投薬には一向に効果がなく、しかも話すことにいちいち筋が通っている。これは精神病患者としてきわめて珍しいことだ。精神科部長のマーク・パウエルはこの奇妙な患者に興味を持ち、彼の担当医として親しく言葉を交わすようになる。彼は自分を宇宙人だと思いこんでいる不幸な病人なのか? それとも本当に宇宙人なのか?

 妄想症の患者が語る物語によって、他の患者や精神科医自身が少しずつ幸せになっていくという物語。話の基本的なコンセプトは、ジョニー・デップとマーロン・ブランドが共演した『ドンファン』という映画に似ている。この映画はそのSF版だ。自称宇宙人のプロートを演じるのは、『シッピング・ニュース』も公開待機中のケビン・スペイシー。精神科医マーク・パウエルを演じているのは、『ザ・コンテンダー』ですっかりベテラン俳優としての貫禄を見せつけたジェフ・ブリッジス。ジーン・ブルーワーの小説を『マイ・フレンド・メモリー』のチャールズ・リーヴィットが脚色し、『バック・ビート』『鳩の翼』のイアン・ソフトリー監督が映画化した。

 不思議な男は宇宙人か否か?というミステリーで物語り全体を引っ張るが、ドラマの中心は「カウンセリング治療」を通して生まれるプロートとマークの友情めいた絆にある。プロートを治療しようとしたマークは、プロートによって逆に癒される。このあたりは定番といえば定番なのだが、マークが抱えている悩みや問題と、プロートの関係性との間にうまく噛みあうところが見えない。マークがなぜプロートにそれほど入れ込むのか、マークがなぜプロートの存在によって癒されるのかが、映画を観ていてもさっぱりわからないのは、このドラマにとって最大の難点。役者ふたりの芝居はナチュラルなもので、彼らのキャリアが最大限に生きた見事なもの。それだけにドラマの空回りが残念に思える。

 映画としてのできはともかく、ケビン・スペイシーは『シッピング・ニュース』よりこちらの方が柄に合っている。どうみてもただの中年男なのに、あまりの堂々とした態度に「ひょっとしたら本当に宇宙人?」と思わせる芝居っぷり。全身からにじみ出る「怪しさ」が、宇宙人というキャラクターにリアリティを生み出す。ただしこの役柄、設定上はもう少し年齢が若くないとおかしい。30代前半ぐらいの役なのだが、スペイシーは老けすぎだ。もっと若い役者がプロートを演じると、ジェフ・ブリッジスとの年齢差が疑似親子関係のようなドラマを生みだして、精神科医マークが抱える個人的な問題とうまく結びついてきたと思う。おそらく脚本を書いた段階で、スペイシーの配役は考慮されていなかったのだろう。主演俳優が決まった段階で、脚本を改訂すべきだった。

(原題:K-PAX)

2002年春公開 日劇プラザ他・全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画

(上映時間:2時間1分)

ホームページ:http://www.k-pax.jp/

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