しあわせ色のルビー

2002/02/12 映画美学校第2試写室
レニー・ゼルウィガーが正統派ユダヤ人社会の中で七転八倒。
ユダヤ人コミュニティの描写が細かくて面白い。by K. Hattori

 『ブリジット・ジョーンズの日記』でアカデミー賞にノミネートもされているレニー・ゼルウィガーが、正統派ユダヤ人社会の中で苦悶するヒロインを演じた'98年製作のアメリカ映画。監督・脚本は『タイタンズを忘れない』のボアズ・イェーキン。名前からも察せられるように、監督自身もユダヤ人だという。

 アメリカはイスラエルを超える世界最大規模のユダヤ人人口を持つ国であり、ニューヨークはその中心地と言えるだろう。アメリカのエンタテインメント産業の中にはユダヤ人が多く、ハリウッドでも多くのユダヤ人が活躍し、映画の中にもたくさんのユダヤ人が登場している。しかし『しあわせ色のルビー』に登場するユダヤ人は、普段映画ファンが見慣れている「アメリカのユダヤ人」とは様子がちょっと違う。ここで「アメリカのユダヤ人」と言うのは、例えばウディ・アレンの映画に登場する人々、『リーサル・ウェポン』シリーズに登場するジョー・ペシ、『僕たちのアナ・バナナ』に出てきたユダヤ人コミュニティの住人などを指す。こうした「アメリカのユダヤ人」はその多くが改革派と呼ばれる人々で、服装も話す言葉も生活習慣も一目でそれとわかるユダヤ人的な特徴を持ってはいない。冠婚葬祭の場面になると、男性が特徴的な小さな丸い帽子をかぶることなどで「ああユダヤ人なんだな」とわかる程度だろう。

 ところが『しあわせ色のルビー』に登場するのは、改革派とは一線を画す正統派のユダヤ人社会だ。ここではユダヤ人としての民族的アイデンティティが信仰と深く結びつき、信仰は生活様式やものの考え方と分かちがたく結びついている。この映画は映画の中で普段あまり脚光を浴びることがない正統派ユダヤ人社会のコミュニティに、奥深くまで入り込んでいく部分が面白い。それに比べると、ヒロインの結婚生活が破綻してジュエリーデザイナーと新しい関係を作っていくという映画の筋立てなど、もはやどうでもいいとさえ思えてくる。もちろん映画に登場する正統派ユダヤ人のコミュニティは、アメリカのユダヤ人全体の中で見ればむしろ少数派。アメリカで暮らすユダヤ人の半数は、「ユダヤ教」の伝統からすら離れていると言われている。しかしこうした正統派のコミュニティが今も存在するのも事実なのだ。

 多くの日本人は「宗教は個人の心の中の問題」だと考えているだろう。キリスト教も伝統的に、信仰を「個人の心の中の問題」だと考えている。宗教や信仰が「心の中」の問題である限り、日常生活と信仰、政治と宗教は完全に棲み分けられる。ところが正統派のユダヤ教やイスラムはそうではない。宗教と日常生活が一元化していて、ふたつを分けることができない。昨年のテロ事件以来、世界の注目がイスラムに集まっている。そこでは宗教と政治が結びつくことを「野蛮だ」と論じる人々も見受けられる。でも本当にそうなんだろうか。「宗教を個人の心の中の問題」にしているのは、キリスト教を基準にした思いこみに過ぎないのかもしれない。

(原題:A Price Above Rubies)

2002年初夏公開 日比谷スカラ座2
配給:プレノンアッシュ 宣伝:ポップ・プロモーション

(上映時間:1時間57分)

ホームページ:http://www.prenomh.com/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:『しあわせ色のルビー』
VHS:A Price Above Rubies
参考:ユダヤを知る事典
参考:図解 ユダヤ社会のしくみ
参考:やさしいユダヤ教Q&A

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