折り梅

2002/02/07 メディアボックス試写室
アルツハイマー病になった姑と嫁の確執を描いたホームドラマ。
『ユキエ』の松井久子監督が実話をもとに映画化。by K. Hattori

 菅野巴は夫とふたりの子供のいる家庭の家事をしながら、週2回のパート勤めをしている平凡な専業主婦。だが家族4人暮らしの平和な家庭は、夫の母・政子を引き取ったことから大波乱に巻き込まれることになる。巴と政子が嫁姑の争いをしているわけではない。このふたりは、もともと折り合いが悪いわけではないのだ。問題は政子が菅野家にやってきて数ヶ月目から、さまざまな異常行動を始めたことだ。何枚もシーツを切って、無限に雑巾を作り続ける。家庭ゴミを近所の家の玄関先に放置する。昼食用に置いてある弁当を床にぶちまける。温厚で面倒見のいい性格は一変し、言葉は荒くなり、ことあるごとに巴に当たり散らすようになる。最初は「嫁がパートに出かけるのが気に入らないのだろう」とか、「家族に相手をされずに寂しいのだろう」と解釈していた家族だが、意を決して医者に行くと、そこではアルツハイマー病だと診断が下される。

 愛知県豊明市の主婦・小菅もと子が痴呆症の姑との関係を綴った手記「忘れても、しあわせ」(日本評論社)を、『ユキエ』の松井久子監督が映画化したもの。実話がもとになっている映画だが、映画化する際に多少の脚色を行っているため人名が変えてある。主人公の巴を演じるのは『愛を乞うひと』の原田美枝子。姑の政子を演じるのはベテラン吉行和子。夫役には『御法度』の好演が印象に残るトミーズ雅。加藤登紀子が地域のデイケア施設の園長を演じている。キャストはかなり豪華。

 70歳のボケ老人を演じるにしては、吉行和子がまだ若いようにも感じられるだろう。でもこの配役によって、「まだまだ元気でしっかりしていると思っていたのに、急にボケはじめてしまう」という姑の悲劇がうまく表現される。これが見るからに老婆然とした女優がボケ老人を演じては、嫁との対決が深刻化しないだろう。顔に深いしわが寄り、腰が曲がり、体力も衰えた白髪の老婆がボケたら、家族はそれを仕方がないと受け入れるしかない。でもこの映画の政子は違う。ほんの数ヶ月前まで小さなアパートで不自由のないひとり暮らしをし、周囲の者にも優しい気遣いを見せていたしっかり者のオバサンが、突然ボケてきてしまうのだ。まだボケるような年にはとても見えなくても、病気は確実に政子の人格を変えていく。頭はボケても体力にはまだ余裕がある。忘れっぽくはなっているけれど、舌鋒は鋭く毒舌も冴え渡る。そのアンバランスさが、巴の心を傷つけ苦しめる。

 老人の家庭介護をテーマにした社会的テーマの作品だが、この映画はそれを社会派ぶらずに語っていて好感が持てる。嫁による姑の介護の問題を「社会」の問題として捉えると、問題は日本全体に広がってドラマの輪郭が曖昧になる。この映画はすべてを「家庭」の問題として描くことで、巴と政子、巴と家族の葛藤をくっきりと描き出すことに成功している。ところどころにこの映画を「社会」の問題にしようとする芽も見えるのだが、そこをぐっと我慢してホームドラマに徹したのがよかった。

2002年3月16日公開予定 シネスイッチ銀座・他
配給・問い合せ:パンドラ、スキップ

(上映時間:1時間51分)

ホームページ:http://www.oriume.com/

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