シッピング・ニュース

2002/01/30 松竹試写室
ラッセ・ハルストレム監督の最新作は露骨なアカデミー賞狙い。
悪い映画ではない。でも感動はできない。by K. Hattori

 『サイダーハウス・ルール』と『ショコラ』でアカデミー賞にノミネートされた、ラッセ・ハルストレム監督の最新作。原作はピュリッツァー賞と全米図書館賞を受賞したE・アニー・ブルーの同名小説。主演は演技派としてハリウッドで不動の地位を築いているケヴィン・スペイシー。共演はジュリアン・ムーア、ケイト・ブランシェット、ジュディ・デンチ、ピート・ポスルスウェイト、スコット・グレン、リス・エヴァンスなど芸達者揃い。脚本は『ショコラ』のロバート・ネルスン・ジェイコブズ。プロデューサーはアーウィン・ウィンクラー。製作はミラマックス。両親と妻を一度に失い悲観に暮れる男が、娘や叔母と共に父親の生まれ故郷であるニューファンドランド島に戻り、ローカル紙の記者として働き始めるというお話。地味ながら滋養に富んだドラマはいかにも「アカデミー賞向け」で、12月25日の全米公開という時期も合わせて、アカデミー賞狙いが見え見えの作品。たしかにいい映画だけれど、僕自身はこの映画から特別な感銘を受けることはなかった。欠点は特にない。「いい映画か、悪い映画か?」と問われれば、少しの躊躇もなく「いい映画だ」と答えられる。でも「感動したか?」と問われると、「しない」と答えるだろう。

 結局この映画の一番の問題は、ケヴィン・スペイシー演じる主人公クオイルが、善良で無垢な人間には見えないということではないだろうか。この話は「善良で無垢な主人公が自分自身の中に流れる呪われた血に気づくが、さまざまな事件を通してそれが浄化されたと確信するに至る」というものだろう。善良で無垢な主人公の対比として、ケイト・ブランシェットは淫乱で尻軽の妻をけばけばしいメイクで演じ、叔母を演じたジュディ・デンチはたっぷりと謎めいた老婆を演じている。主人公たちが暮らす古い屋敷はワイヤーで地面にしっかりと固定してある異様な姿で、まるで巨大な猛獣をロープで縛り付けているような姿にも見える。クオイルの先祖が離れた島から追放されたという話や、クオイルの父のエピソードなども、主人公が「善良で無垢」であることと対比して語られることで意味を持ってくるのだと思う。でもケヴィン・スペイシーは、映画ファンの目から「善良で無垢」な男に見えるだろうか? これは疑問だ。

 善良で無害に見えるものの裏に潜む、凶暴さや悪意というのがこの映画のテーマになっている。善良な男であるクオイルの身体には、呪われた祖先の血が流れている。幼い娘は「退屈な子ね」と叫んで人形をバラバラに解体してしまう。明日船出するというヨットを、送別会にやってきた友人たちが寄ってたかって壊してしまう。人間の中に潜む獣性の問題は、クオイルの父と叔母のエピソードが表に出た段階でよりあからさまになる。

 あらゆる問題が噴出した後、一夜の嵐によって一切が崩壊し、そこから再生に至る道が開けるというハッピーエンド。しかし僕はこのエンディング前の「崩壊」に今ひとつ得心がいかない。それが感動できない理由だ。

(原題:THE SHIPPING NEWS)

2002年春公開予定 丸の内プラゼール他・全国松竹系
配給:アスミック・エース、松竹

(上映時間:1時間52分)

ホームページ:http://www.shippingnews.info/

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