害虫

2001/12/27 シネカノン試写室
『月光の囁き』『どこまでもいこう』の塩田明彦監督最新作。
主演は宮崎あおい。話は暗い。暗すぎる。by K. Hattori

 『月光の囁き』で高校生を、『どこまでもいこう』で小学生を描いた塩田明彦監督最新作は、『ユリイカ』の宮崎あおいを主演に迎えた中学生のお話。ただし今回の映画、過去2本に比べてかなり暗く病んだドラマが展開する。もちろん男子高校生のねじれた性愛を描く『月光の囁き』だって健全で明るい話とは呼べないし、『どこまでもいこう』にも狂気や死という暗い闇のような部分はあった。しかしそれは、映画の中心テーマではなかったように思うのだ。光を強調するための影。物語の明るい面を際だたせる、比較対照としてのダークサイドが過去2作の持つ暗さだと思う。しかし今回の映画は、もろにダークな世界に突入してしまう。映画はいきなり主人公の母親の自殺未遂で始まり、その後も不登校、援助交際、暴力、レイプ、放火など、足下が崩れ去るようにぽっかり開いた暗黒へと真っ逆さまに転落していく。

 主人公の北サチ子は母親とのふたり暮らし。13歳の中学1年生だが、学校にはもう長く通学していない。朝は学校に行くふりをして家を出るのだが、その後は夕方まであちこちをブラブラして時間を過ごしている。物語はサチ子の視点を通して彼女の生活する世界を描いていくのだが、そこには説明的な台詞や描写がほとんどない。音楽や編集技術を使って、特定の感情や感覚を観客に想起させる誘導技術も排されている。この世界という森の中から、そのまま切り出された未加工の丸太のような、即物的で素っ気ない描写の数々。映画を寸断していく黒字に白文字のテロップがいったい何を意味しているのかも、僕には即座にわからなかった。しかし映画を注意深く観ていくと、この文字の羅列はサチ子と元教師の手紙のやりとりであることがわかる。

 田辺誠一が演じるこの元教師は、サチ子が小学校6年生の時の担任だったが、サチ子との間に何かがあり、それが原因で学校を辞めたと噂されている。しかし具体的にふたりの間に何があったのかは、映画の中にまったく描かれない。この映画には、描かれていないことが多い。その描かれていないことを、観客は自らの想像力で埋めていく。そのための手がかりは、映画の中のあちこちに隠されてる。『月光の囁き』や『どこまでもいこう』でたっぷりと心理描写のテクニックを追求した塩田監督は、この新作で過去2作で使ったテクニックを封印する。その結果、映画は自ら何かを語ることをしない。映画を観る側は自分の観察力と推理力を総動員して、映画の中でいったい何が起きているのかを推測し、妄想する。

 かなりしんどい映画だが、出演者の顔ぶれが豪華であることが、そのしんどさを少しずつ中和する。映画のあちこちに登場する「知った顔」が、この映画の即物的リアリズムを「映画の一場面」へと置き換えていくのだ。ここに描かれているのは「演技」であり、決して「現実」ではない。そう自らに言い聞かせながらでないと、この映画を観るのは辛すぎる。上映時間は1時間32分。これが2時間あったら、途中で嫌になるよなぁ。

2002年3月公開予定 ユーロスペース他・全国ロードショー
配給:日活 宣伝:ビターズ・エンド

(上映時間:1時間32分)

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