レイン

2001/12/21 シネカノン試写室
耳の聞こえない殺し屋を主人公にしたタイ映画。
雰囲気としてはまるっきり香港映画。by K. Hattori

 香港出身のオキサイド・パンとダニー・パン兄弟が、タイで作った香港ノワール調のアクション映画。パン兄弟は'65年生まれの双子の兄弟で、この映画では監督・原案・脚本・編集を共同で行っている。ふたりはもともと香港で映画やテレビの世界に入り、その後タイに活動拠点を移したというキャリアの持ち主。本作『レイン』はタイ映画だが、次回作はピーター・チャンがプロデュースする香港映画になる予定。

 主人公の青年コンは耳の聞こえない殺し屋だ。障害が原因で幼い頃からいじめられて育ったコンは、たまたま知り合ったジョーという殺し屋に誘われるまま、超一流の殺し屋へと成長する。耳の聞こえないコンには、自分が引き金を引いた後に鳴り響く銃声も、周囲で巻き起こる悲鳴や叫び声も、パトカーや救急車のサイレンの音も聞こえない。コンは狙いを定めて引き金を引き、同時に照準器の中のターゲットが倒れる。ただそれだけのことだ。ある日のこと、コンはたまたま入った薬局でフォンという美しい少女に出会う。コンの障害を特別視せず、ごく当たり前のように優しい気遣いを見せてくれる彼女にコンは一目惚れしてしまう。少年のように無邪気な笑顔を見せるコンに、フォンもまた惹かれていった。だが何度目かのデートの後、ふたりは夜の公園で強盗に襲われる。コンは躊躇することなく、フォンにナイフを突きつける強盗に向けて銃の引き金を引いたのだが……。

 物語自体に目新しさは感じられない。暴力の世界に生きる男がひとりの無垢な少女に出会い、自分の暮らす暴力の世界に疑問を感じつつも、兄弟分の仇討ちのために再び暴力の世界に身を投じていく。雰囲気としてはウォン・カーウァイのデビュー作『いますぐ抱きしめたい』と同じ泣き節だ。トリッキーな映像テクニックを使ったビジュアル面でのインパクトを重視した絵作りも、一時期のウォン・カーウァイを連想させる。監督のパン兄弟は'80年代の「香港ノワール」全盛時代を香港で過ごしている。こうした映画体験が種子となり、タイ映画界の上に着地し芽吹いたのが『レイン』なのだと思う。映画のクライマックスで、コンが兄貴分の仇討ちに出かけるシーンは二丁拳銃とスローモーション。目をぎらつかせながら死地に向かうコンに、ぴったり寄り添うように兄貴分の影が合成される死の行進。似たような場面を、ジョン・ウーの映画で見たような気がするなぁ……。

 これをタイ映画だと思うと「うわ〜、なんだかタイ映画ってすごいぞ!」と感心するのだが、香港映画だと考えると「なかなか才能のある監督じゃん」ぐらいのもので、感想から「!」が消えてしまう。おそらくこれは、「!」なしで評価する方が正しいのだと思う。もちろん大した才能だとは思うけれど、問題はこれと同じレベルの作品を今後も大量生産していけるかだろう。

 パワリット・モングコンビシットは、汚れた世界に身を置きながら目だけが綺麗に澄んでいるコンを好演。フォン役のプリムシニー・ラタナソパァーもかわいい。

(原題:BANGKOK DANGEROUS)

2002年新春第2弾公開予定 渋谷東急3他、全国ロードショー
配給:クロックワークス

(上映時間:1時間46分)

ホームページ:http://www.klockworx.com/rain/

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