キリング・ミー・ソフトリー

2001/12/03 日本ヘラルド映画試写室
『さらば我が愛/覇王別姫』のチェン・カイコー監督最新作。
初の英語劇はものすごく無難な仕上がりだ。by K. Hattori

 『さらば我が愛/覇王別姫』『始皇帝暗殺』のチェン・カイコー(陳凱歌)監督が、ハリウッドで作った英語作品。製作総指揮はアイヴァン・ライトマン。主演は『ブギーナイツ』『オースティン・パワーズ:デラックス』のヘザー・グラハムと、『恋に落ちたシェイクスピア』『スターリングラード』のジョセフ・ファインズ。物語の舞台はイギリスだ。ロンドンのITベンチャー企業で働くアリスは、会社に向かう交差点で出会った男に一目で恋してしまう。たまたま指先が触れ合い互いに微笑みを交わし合っただけの関係なのに、アリスの胸は高まり仕事も手に付かないほどなのだ。会社を抜け出したアリスの足は、彼が入った書店に向かう。そこで再び彼と視線を交わし合ったアリスは、彼に誘われるままに彼の家を訪れ身体を重ね合わせる。生まれて初めての行きずりの情事。だがそれは一度きりでは終わらなかった。彼の名前はアダム。世界的に有名な登山家だ。アリスは翌日も彼のもとを訪ね、自分がもう彼なしには生きていけないと感じる。同棲中の恋人との生活を解消し、身ひとつでアダムのもとに向かったアリスだったが……。

 外国人の監督がハリウッドで映画作りをする場合、最初の作品はまずまず無難な線に落ち着くことが多い。1本目の作品には、ハリウッドの撮影システムに慣れるためのトレーニング期間という意味があるのかもしれない。この映画はイギリスで撮影されているが、これも組合の規定ががちがちに固まっているアメリカ本国での撮影を避けるという意味があったのではなかろうか。もちろんこのあたりは、監督よりプロデューサーの判断だろう。本作は「外国人監督のハリウッド第1作」の例に漏れず、内容面ではものすごくオーソドックスで無難なものになっている。上映時間が1時間41分のラブ・サスペンス。愛する男と結ばれた新妻が夫の過去を調べる内に、夫の過去に疑惑を抱くようになる。ひょっとしたら、夫は殺人者なのではないだろうか? 夫の過去の秘密を知ってしまった自分が、次に殺されるのではないだろうか……。ヒッチコックの映画などで、何度も観たことのあるようなストーリーなのだ。

 こうした内容の映画は、ヒロインの心情に観客が強く感情移入しないと成立しない。しかし主演のヘザー・グラハムに、僕はあまり魅力を感じられなかった。この役は、彼女の個性にはあまり合っていないのだと思う。地味で平凡な生活に満足していたヒロインが、野性的な魅力を漂わせる男と出会うことで変わっていく話なのに、この映画のヘザー・グラハムは最初から奔放そうに見えてしまう。もともと奔放で強いヒロインが、我慢してエンジニアの恋人と同棲していたように見えてしまう。夫に疑惑を持ちながら、彼女があえて夫に直接それを尋ねられないのはなぜなのか。彼女は夫の身辺を嗅ぎ回る行動力を持っているくせに、夫に直接疑惑をぶつける勇気が持てない。疑惑と愛情の板挟みで苦しんでいるようにも見えない。そもそもミスキャストなのかなぁ……。

(原題:KILLING ME SOFTLY)

2002年1月下旬より公開 日比谷スカラ座他・全国東宝洋画系
配給:アミューズピクチャーズ 宣伝:トライアル

(上映時間:1時間41分)

ホームページ:http://www.amuse-pictures.com/

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