みんなのしあわせ

2001/11/29 TCC試写室
アレックス・デ・ラ・イグレシア監督のキツーイ喜劇映画。
腐乱死体の残した大金を巡って殺し合い。by K. Hattori

 『ビースト/獣の日』『どつかれてアンダルシア(仮)』などの作品で知られるスペインの鬼才、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の最新作。不動産屋の営業ウーマンとして働く中年女性ジュリアが、案内先のアパートで見つけた老人の腐乱死体。おかげで誰もがうらやむ豪華な部屋は、あっという間に「いわく付き物件」に早変わりしてしまう。だが死んだ老人は莫大な遺産を残しており、ジュリアが偶然それを発見。それを知ったアパートの住人たちは、ジュリアから金を奪おうと目の色を変える。彼らは老人の金を奪うため、何年も前から交代で監視を続けていたのだ。アパートの住人にとって、ジュリアは長年狙っていた金を横取りした邪魔者。彼らはジュリアから自分たちの取り分を取り戻すため、あの手この手で彼女に接近してこようとするのだが……。

 不安を煽るような音楽にグラフィカルなビジュアルとタイポグラフィ処理をする、ヒッチコック&ソウル・バス風のオープニング。自分たちの欲望のため犯罪にさえ手を染めるアパートの住人たちの中に、何も知らないヒロインがひとり引っ越して、しかも彼らが狙っている大金を偶然手に入れてしまうという、かなり強引だが典型的な巻き込まれ型のサスペンス。ヒロインのシャワーシーンもあれば、目のくらむ高所に宙吊りになる高所恐怖症的なスリルもある。映画のベースにあるのは、ヒッチコック映画のエッセンスだ。引用やパロディというほど露骨ではないが、全体から漂うヒッチコック臭はぬぐいようもない。ハラハラドキドキと手に汗握るサスペンスの連続。腐乱死体もあれば、人体切断の断末魔もある。しかしこの映画、抱腹絶倒のコメディ映画なのだ。

 悪趣味すれすれというより、完全に悪趣味の側に足を突っ込んでしまっているギャグの数々。観客の神経が受け止めきれる許容範囲を突破したレッドゾーンエリアで、次々に繰り出される大ネタ小ネタには笑顔も凍り付きかける。しかし観客の笑顔が固まったままになったのでは、『ペルディータ』でやらかした失敗の繰り返しだ。この映画は悪趣味ギャグの緊張状態の中に、ふっと観客が力を抜ける描写を差し挟む余裕を見せる。例えばダース・ベイダーがフォースのパワーをほとばしらせつつある場面に、ドアの外の母親の姿を挿入するのはその最たる例。またこの監督は、観客の極度の緊張が弛緩した瞬間がギャグの突破口であることをよく心得ている。ヒッチコックばりの高所追跡劇の中に、突然『ロイドの要心無用』のような小ネタを入れるし、緊張感が頂点に達しつつある場面で、思い出したように『マトリックス』のパロディが登場する。このタイミングの絶妙さ!

 前作『どつかれてアンダルシア(仮)』もそうだったが、この監督のギャグの本質は「不謹慎な笑い」にあるように思う。人間は他人の不幸や醜態を見た時、思わずニヤリとしてしまう底意地の悪さを持っている。それを異様なシチュエーションの中でギャグにまで昇華しているのが、イグレシア作品の魅力だと思う。

(原題:LA COMUNIDAD)

2002年新春公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ、横浜西口名画座
配給:ギャガ・コミュニケーションズ ヨーロッパ映画グループ
宣伝:スローラーナー

(上映時間:1時間46分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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