ヴィドック

2001/11/19 映画美学校第1試写室
フランス民衆のヒーロー、ヴィドックの活躍を描くミステリー・アクション。
ビジュアルは面白いがストーリーには難がある。by K. Hattori

 1830年7月。革命で騒然とするパリに、「ヴィドック死す」の報がもたらされる。ヴィドックはもと大泥棒だが、警察の協力者として働くようになってから目覚ましい活躍を見せてきた民衆のヒーローだ。数年前に警察の職を辞し、今はパリ市内で自分の探偵事務所を開いている。その彼が古いガラス工場で謎の怪人と闘い、力尽きて倒れたというのだ。遺体は灼熱の釜の中に消えて跡形もない。ヴィドックはいったい誰を追っていたのか? 相棒の死を新聞で知ったヴィドックの相棒ニミエは、ヴィドックから自伝執筆を依頼されていたという若い作家エチエンヌの訪問を受けて憮然とする。この若い作家は「ヴィドック最後の事件」の謎を解明し、それを自伝の終章にしたいのだとニミエに持ちかける。ニミエはヴィドック最後の日々について語り始める……。

 ヴィドックというのはフランスでは誰もが知っている民衆のヒーローで、過去にも何度か映画化されたりテレビシリーズにもなっている男だという。歴史上に実在した人物だが、その活躍は講談調に誇張されて世間に流布し、実像よりも虚像のイメージの方が大きい。日本で言えば遠山の金さんとか大岡越前みたいなものだろうか。この映画もそんなヴィドック像の伝統を受けて、主人公の荒唐無稽な活躍ぶりを描いている。ただしこの映画、ヴィドックをよく知っているフランス人にはこれでも構わないんだろうけど、そうでない僕のような人間にとっては観ていても退屈な映画だと思う。

 この映画最大の欠点は、ドラマが主人公の死から始まり、ストーリーが主役不在のまま進行していくことだろう。もちろん回想シーンの中にヴィドックは登場するし、主人公の死を巡る謎をさまざまな証言で綴っていく構成は『市民ケーン』などの前例がないわけではない。しかし『市民ケーン』では主人公の死の謎を究明しようとするジャーナリストが顔のない「匿名の男」だったのに対し、『ヴィドック』では伝記作家エチエンヌの存在が大きすぎる。エチエンヌが八面六臂の活躍をしてしまうことで、本来の主人公であるヴィドックの影が薄くなるのだ。伝説の男ヴィドックが命をかけて解明しようとした事件を、犯罪捜査にはずぶの素人であるエチエンヌがいとも簡単に後追い取材していく様子を見ていると、ヴィドックもエチエンヌも捜査能力に格段の差があるとは思えなくなる。これは脚本上の大きな欠点だと思う。

 この映画の舞台となっている1830年7月のパリは、王政復古のブルボン朝が倒されてルイ・フィリップの王政が成立した「七月革命」の時期を迎えている。こうした実在の政治混乱と当時のパリ市街をリアルに描く部分と、ヴィドックの怪人の対決という荒唐無稽な事件とが、映画の中でうまく馴染んでいないようにも思う。監督は『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』『ジャンヌ・ダルク』などの作品で知られるフランス随一の特殊効果マン、ピトフ。映画監督としてはこれがデビュー作。本作はハイビジョン・デジカメで撮影されている。

(原題:VIDOCQ)

2002年1月12日公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:アスミック・エース

(上映時間:1時間38分)

ホームページ:http://www.vidocq.jp/

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