マルホランド・ドライブ

2001/10/26 イマジカ第2試写室
デイヴィッド・リンチの不気味で摩訶不思議な世界を堪能できる。
『ストレイト・ストーリー』で寝た人は必見。by K. Hattori

 デイヴィッド・リンチの最新作。前作『ストレイト・ストーリー』を観て「なぜリンチがこんな映画を?」と首を傾げた人には必見。物語は……まったく理解できません。映画全体を「要するにこういうことだよね」と強引に解釈して要約する余地は残されているものの、この作品の面白さはそうした要約が不可能な雰囲気とたたずまいにある。とにかく不気味。とにかく恐い。映画のオープニングは、フィフティーズ風のポップミュージックに合わせて大勢のダンサーが踊るというもの。その映像にスポットライトを浴びて微笑む若い金髪女性の映像がオーバーラップされてから、物語は突然核心に入っていく。真っ暗な山道を走る1台の黒塗りの車。場所はロサンゼルスの丘陵地帯を貫くマルホランド・ドライブ。運転席と助手席に乗る強面の男たちは突然車を止めると、後部座席の若い女に銃を突きつけて車を降りるように命じる。彼女は何かとんでもない事件に巻き込まれつつある。それが何なのかは、映画を観ている観客の側にはまったくわからない。次の瞬間、山道を暴走してきた若者たちの車が黒塗りの車に猛スピードで激突。後部座席から這い出した女は、坂道の下に見えるロサンゼルスの明かりに向かってフラフラと歩き始める……。

 この導入部だけで、もう僕はこの映画に引き込まれてしまった。事故で記憶をなくした女は、女優志願の若い女ベティの家に転がり込む。手にしているのはバッグにぎっしり詰まった100ドル紙幣と1本の鍵。とりあえずリタと名乗ることにした女はベティと共に、自分自身が何者なのかを探ろうとするのだ。物語はこの話と同時進行で、若い映画監督が謎めいた出資者に主演女優を押しつけられる話や、ファミレスで話をしていた男が突然卒倒するエピソードなどをからめていく。こうした複数のエピソードは記憶を失った女リタと関わりがあるようなのだが、それが具体的にどんな意味を持っているのかは映画の最後までわからない。(ある意味では、映画の最後になってもわからない。)映画はこうした大小の謎を時に大胆に、時には慎重に小出しにしながら、物語の奥深くまで観客をぐいぐい引き込んでいく。

 映画作りの定石として「謎の提示」「謎の解決」「新たな謎の提示」「謎の解決」を繰り返していくパターンがある。ところがこの映画は「謎の提示」「新たな謎の提示」「さらなる謎の提示」と謎ばかりを次々に観客の前に突きつけ、それが飽和状態に達したところで一気に根本から突き崩す。『ロスト・ハイウェイ』では最後まで物語を謎で埋め尽くしたデイヴィッド・リンチだったが、今回行っているのは、映画の最後の30分でそれまでに提示した謎をすべて無効にしてしまうという荒技だ。この終幕には賛否が分かれるかもしれない。謎に決着が付けられることを是とする人と、その決着の付け方を退屈だと感じる人が現れそうだ。しかしこの謎解きも含めて、映画の最後まで緩むことのない圧倒的な緊張感。久しぶりのリンチ節を堪能させてくれる作品でした。

(原題:MULHOLLAND DRIVE)

2002年新春第2弾公開予定 シネセゾン渋谷
配給:コムストック

(上映時間:2時間37分)

ホームページ:http://www.comstock.co.jp/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ