アクシデンタル・スパイ

2001/10/25 日本ヘラルド映画試写室
ジャッキー・チェンが香港・韓国・トルコで活躍するスパイ映画風コメディ。
香辛料市場での追っかけだけでも観る価値あり。by K. Hattori

 ジャッキー・チェン主演のアクション・コメディ映画。韓国の大物スパイだったという見ず知らずの老人に、莫大な遺産の相続人として指定された主人公バック。だが間もなく死んだ老人は、表向きの財産をあらかた福祉施設に寄付してしまい、彼の手元にはわずかな現金が残るのみ。死の直前につぶやいた老人の謎めいた言葉を手がかりに、バックはトルコの銀行にある隠し金庫を発見。だがそんな彼を、謎の男たちが襲う。狙いは金ではないらしい。「例のものを出せ!」と言われても、バックには何のことだかさっぱりわからない。彼は知らず知らずのうちに、細菌兵器を巡って繰り広げられる武器商人とCIAの諜報戦に巻き込まれていたのだった。

 細菌兵器の奪い合いというスパイ映画風の主題を持ってきているが、映画の中には本物のスパイらしき人物がほとんど出てこないので何やら羊頭狗肉な感じがしないでもない。物語の一部は構成を『北北西に進路を取れ』から借りているようだが、諜報戦の素人がなぜか国際的な陰謀に巻き込まれるというスリルはまったく味わえない。この映画が弱々しいのは、主人公にいつでも逃げられる道筋を用意しているからだろう。バックはトルコで現金を手に入れた後、なぜすぐに香港に戻らなかったのか。彼は老人が残した負の遺産まで背負い込むことはないのだ。この映画は彼が逃げ出さない理由を、彼自身の好奇心と冒険心、それに悪の組織に捕らわれている若い女に対する恋慕などで説明しようとしている。でもこれは理由付けとしては弱すぎると思う。ずぶの素人である主人公を諜報戦のど真ん中に取り残すには、誰もが納得できるだけの「逃げるに逃げられなくなる理由」を考えなければならないし、彼が逃げる時にはすべての問題が解決しなければならない。それが娯楽映画のルールってものではないのか。でもこの映画は、そのルールを無神経にも破ってしまった。これには納得できない。

 監督は『ダウン・タウン・シャドー』のテディ・チャン。脚本は『ゴージャス』のアイヴィー・ホー。韓国の女優キム・ミンがCIAのエージェント役で出演し、日本でもお馴染みのビビアン・スーが薄幸の若い女を演じている。でもこの映画、ジャッキー以外は全員がゲスト出演であるかのように影が薄い。

 ドラマ部分には大きな欠点を持つこの映画だが、まったく楽しめないかというとそんなことはない。むしろ『ラッシュアワー』シリーズなど最近の作品ではくすぶっていたアクションの切れが、この作品では見事に復活している部分が散見される。その筆頭はジャッキーがトルコの浴場で暴漢たちに襲われ、素っ裸で逃げ出すシーンだろう。このシーンはここ5年くらいのジャッキー映画の中で、一番ハラハラドキドキし、しかも大笑いできる名場面だと思う。主人公が危険な目に遭えば遭うほど、ギャグが冴え渡るという往年のジャッキー映画の黄金律がここにはある。ジャッキー・チェンは、生身の肉体で宮崎アニメのアクションが再現できる人だ。

(原題:特務迷城 THE ACCIDENTAL SPY)

2001年11月下旬公開予定 東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画

(上映時間:1時間49分)

ホームページ:http://www.accidentalspy.jp/

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