うつくしい人生

2001/10/17 メディアボックス試写室
黄金色に輝く画面の中で、ひとつの家族の死と復活を描く傑作。
自分自身の人生を生きることの大切さがテーマ。by K. Hattori

 一昨年のフランス映画祭横浜では、『これが人生?』というタイトルで上映された作品。映画祭の時は配給会社が決まっていなかったのですが、結局プレノンアッシュが買い付けて日本で配給してくれることになりました。この傑作が、劇場で日本の映画ファンの目に触れる機会を得られたことは嬉しい。これはなるべく大勢の人に観てもらいたい作品です。

 南フランスの小さな町。農業を営むの家の長男として生まれた主人公ニコラは、金策に苦しみ年中青い顔をしている父を見て憂鬱な気分になる。ニコラは農業が嫌いではない。でも田舎町の小さな世界を抜け出して、もっと大きな世界を見てみたいというのがニコラの夢だ。だがそんな矢先、身も心もすり減らすように働きづめだった父が自殺する。国の狂牛病対策で飼っていた牛を全部取り上げられたことが、父親を支えてきた最後の気力まで奪い取ってしまったのだ。一家は農場を売り払って、慣れない町での生活を始めるが……。

 農業を嫌って都会で働きたいと願っていた青年が、父の死と一家の離散を機会に再び農業に立ち返り、周囲の理解と協力を得ながら新しい人生を歩み始めるという物語。だがこの映画は簡単に、「農業は素晴らしい」とか「土と共に生きる農民万歳!」などとは言わない。映画の前半で描かれるのは、フランスの農業が抱えている深刻な不況だ。借金まみれになりながら、「なんとか食える」状態を維持するのが精一杯のニコラ一家。その生活は貧しく、明日の希望は何もない。会社勤め人の何10倍も働いても、収入は会社勤めの人の10分の1以下。一家の生活を支える現金収入は、祖父母の年金だけというありさまなのだ。この映画はそんな農業の厳しさを、嫌と言うほど映画の前半で描き出す。だからこそその困難に挑戦しようとニコラが奮起する映画後半は、主人公の成長ぶりが一段と頼もしく力強く思えるのだ。

 自分の人生は自分で切り開いていかなければならない。主人公のニコラは、祖父から父に引き継がれた農業という仕事を、自分がそのまま三代目として継ぐのはまっぴら御免だと考えていた。誰だって他人から与えられた人生で苦労したくないのだ。だが映画後半のニコラは、それよりもさらに苦しい困難に自ら立ち向かっていく。そしてその困難は、ちっとも嫌そうに見えない。ニコラはその苦難の多い生き方を、自分自身が選び取った人生として楽しげに受け止めている。この映画のニコラを見ていると、「人生かくありたいものだ!」と思えてくる。

 映画全体が黄金色に輝く撮影の美しさは、時折涙ぐみそうになるほど心にしみる。日本の琴を使った音楽も、風景とぴったりマッチしている。人生の中には、辛いことも苦しいことも悲しいことも残酷なこともある。でもそれを乗り越えて、人は生きなければならない。自ら困難の中に飛び込んでいく勇気と気概さえあれば、人生はかくも美しく光り輝くのです。1度観たら何度でも観たくなる作品。僕はこの映画が大好きです。

(原題:C'est Quoi la Vie?)

2002年新春第2弾公開予定 シネマ・カリテ
配給:プレノンアッシュ

(上映時間:1時間55分)

ホームページ:http://www.prenomh.com/

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