夜風の匂い

2001/10/17 映画美学校第1試写室
愛を追い求めるほど心の中が荒涼としてくる人間の矛盾。
フィリップ・ガレル監督。カトリーヌ・ドヌーヴ主演。by K. Hattori

 『秘密の子供』『ギターはもう聴こえない』『愛の誕生』などの作品で知られるフィリップ・ガレルが、カトリーヌ・ドヌーヴを迎えて撮った作品。ドヌーヴが演じるのは、裕福な夫を持つ人妻エレーヌ。彼女には夫の他に、若い愛人がいる。ポールというその男はまだ30代の自称彫刻家だ。ポールの安っぽいアパルトマンを訪ねて一緒に過ごす時間が、エレーヌにとっては幸福な時間。だがその幸福は、今目の前で崩壊しようとしている。ポールは年上のエレーヌが自分に夢中になっているのを、少し重荷に感じ始めている。ふたりは関係を続けながらも、心は遠く離れてしまった。ポールは仕事でナポリに出かけ、そこでセルジュという中年の建築家と知り合う。おそらくエレーヌと同年輩のその男にポールは強く引きつけられ、一緒にパリまでドライブすることになる……。

 登場人物はエレーヌ、ポール、セルジュの3人のみと言ってもいいだろう。他にも台詞のある役がいくつかあるが、それはどれも1シーンのみに登場する通りすがりの人間たちだ。物語はあくまでも、この3人の中で作り上げられていく。物語はエレーヌの登場から始まり、ポールのナポリ行きに付きあってセルジュと出会い、最後はセルジュのモノローグで幕を閉じる。物語の語り手が、エレーヌ、ポール、セルジュへと移動していくわけだ。それまで主役だと思っていた人物が、いつの間にか急速に後退して脇役に回り、逆に脇役だと思っていた人物が、いつの間にか主役としてスポットライトを浴びている。その主役交代をきわめてさりげなく行っていくので、観ていて僕は戸惑ってしまった。エレーヌからポールへの視点移動はともかく、ポールからセルジュに視点が映っていくあたりは少し置いてけぼりを食った気分。もっともこの時、僕はちょっと眠かった。もっと体調のいい時なら、こうした演出も気にならなかったかも。

 ポールを演じているのは、この映画の共同脚本も担当したグザヴィエ・ボヴォワ。この人は映画監督でもある才人だが、この映画の中では煮え切らない態度で恋人から逃げ回る男を演じている。彫刻家のセルジュを演じるのは、『クリスマスに雪は降るの?』でふたつの家庭を持つ農夫をエネルギッシュに演じていたダニエル・デュヴァル。この人も映画監督としてのキャリアを持つ人だ。プレス資料の開設に寄れば、フィリップ・ガレルはこのセルジュという役に自分の人生を色濃く投影しているのだという。この点について、僕はよくわからない。

 この映画は愛の孤独を描いている。人を愛すれば愛するほど、人は自分の孤独を思い知らされるという逆説。人は孤独から逃れるために愛を求め、誰かと身も心も一体になりたいと願う。しかし誰かを愛し、誰かに愛されると、人は逆に孤独でいたいと願うようになる。エレーヌはポールを愛することで、自分が絶望的な孤独の中にいることを思い知らされてしまう。ポールはそんなエレーヌの捨て身の愛に振り回されることを嫌う。愛とはそれ自体が、きわめて矛盾した存在なのかもしれない。

(原題:LE VENT DE LA NUIT)

2002年正月第2弾公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:ビターズ・エンド

(上映時間:1時間35分)

ホームページ:http://www.bitters.co.jp/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ