裏切り者

2001/10/15 メディアボックス試写室
地下鉄修理工事を巡る汚職事件に巻き込まれる家族のドラマ。
人間の弱さが生み出す罪と、罪が生み出す悲劇。by K. Hattori

 ニューヨーク・マンハッタンの東に広がる、クイーンズ地区。そのど真ん中にあるのが、映画の原題にもなっている『The Yards』(地下鉄の操車場)だ。自動車泥棒の罪で服役していたレオが、1年4ヶ月ぶりにクイーンズの自宅に戻ってくる。笑顔で彼を迎える親戚や仲間達。病弱な母親とふたり暮らしのレオは、母のためにも真面目に働いて親孝行したいと願っている。地下鉄関係の修理会社を経営する叔父フランクに雇われたレオは、修理工の養成学校に通えという叔父の助言を退けて、親友であり、今はフランクの右腕として働くウィリーと同じ仕事をさせてくれと願い出る。だがウィリーの仕事とは、役人に賄賂を送って不正な入札を行ったり、ライバル社の工事を妨害するという汚いものだった。ウィリーの自信満々の姿、目の前の大金、そして区長など政界の大物たちとも太いパイプを持つフランクの威光を見せつけられて、レオはこの“仕事”に引き寄せられていく。

 監督は『リトル・オデッサ』のジェームズ・グレイ。レオを演じるのは売れっ子のマーク・ウォルバーグ。ウィリー役は『グラディエーター』のホアキン・フェニックス。ウィリーの恋人であるレオの従妹エリカをシャリーズ・セロンが演じている。“エレクトリック・レール社”という小さな帝国の支配者フランクを演じるのはジェームズ・カーン。その妻でレオの叔母、そしてエリカの母でもあるキティを演じるのはフェイ・ダナウェイ。レオの母ヴァルを演じているのは『レクイエム・フォー・ドリーム』のエレン・バースティン。

 サスペンス映画によくあるエピソードとして、政財界の大物が部下を使って敵対する勢力にさまざまな妨害工作をする話が出てくる。実際にこうした実力行使に従事するのはチンピラのような若い男たちで、彼らは悪事が発覚しそうになると口封じのため虫けらのように殺されてしまう。この映画はそんな“虫けら”の視点から、社会の腐敗に切り込んでいく映画と言えるだろう。知らず知らずのうちに、叔父の商売の後ろ暗い部分を手伝う羽目になる主人公レオ。すべてが金で片づくはずだったのに、思いがけないところで血が流されて、レオは窮地に陥る。レオにかけられた殺人の濡れ衣。レオが逮捕されれば、雇っていた会社は破滅だ。レオには口をつぐんでもらわなければならない。それも確実に、永久にだ。

 主人公のレオは決して悪人ではない。悪人でないのは、フランクもウィリーも同じだ。彼らはわざと人を傷つけたいと願ったわけではないし、自分を信頼してくれた人を裏切りたいとも思ってもいない。だが彼らは自分たちの利益のために不正を許してしまう弱さがあったし、自分たちを守るためには他人を裏切るずるさも持っている。これは人間的な弱さでありずるさだ。ウィリーとフランクがレオを切り捨てねばと思いながら、決心が付かず逡巡する様子は哀れですらある。いっそ割り切って血も涙もない悪党になれてしまうなら、ウィリーやフランクはどれほど楽だったろうか……。

(原題:The Yards)

2001年11月公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:アスミック・エース

(上映時間:1時間55分)

ホームページ:http://www.asmik-ace.com/Yards/

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