O[オー]

2001/10/11 ムービーテレビジョン試写室
シェイクスピアの「オセロ」を現代の青春映画に翻案。
主演のジョシュ・ハートネットはイアーゴ役。by K. Hattori

 シェイクスピアの四大悲劇のひとつ「ベニスのムーア人オセロの悲劇(オセロ)」を、現代アメリカの青春映画に翻案した作品。裕福な白人家庭の生徒ばかりが集まる私立の全寮制高校に、たったひとりの黒人生徒が入学した。彼の名前はオーディン・ジェイムス、通称O(オー)。バスケットボール選手として天才的な力を持つ彼は、校長やコーチの期待に応えて学内のバスケチーム“ホークス”を地区優勝へと導いていく。だがそんなオーディンを不快な目で見つめる生徒がいた。ホークスの選手でありコーチの息子でもあるヒューゴはオーディンの才能と人気に嫉妬し、数々の陰謀を巡らして彼を破滅に導いていこうとする……。

 物語の筋立てはほぼ原作通りで、それを見事に高校のバスケットボールチームの話に作り替えている。ムーア人の将軍オセロは白人ばかりの高校に通うバスケットの天才オーディンに、元老の娘で父の反対を押し切ってオセロの妻となるデズデモーナは校長の娘デジーに、オセロに嫉妬し陰謀を巡らせるイアーゴはヒューゴに、彼の謀略でオセロの嫉妬を煽る役を演じることになるキャシオはチームメイトのマイクに、デズデモーナからハンカチを盗み出すイアーゴの妻エミーリアはヒューゴの恋人エミリーに、イアーゴに将棋の駒のように使い回されるロダリーゴーは理事長の馬鹿息子ロジャーになっている。物語の筋立てを原作通りにした上で、役名のほとんどが少しずつ原作からもじってあるところなど芸が細かい。(キャシオはさすがにもじりきれなかったかな……。

 400年も前に書かれたシェイクスピアの戯曲が今でも上演され、映画化され、人々を感動させるのは、そこに登場する人間たちの感情の動きがリアルで、どの時代の人々にも通じる普遍性を持っているからだと思う。この映画はシェイクスピアが描いた人間の嫉妬の恐ろしさを、そのままそっくり現代に移し替えることに成功していると思う。ヒューゴの嫉妬の原因が、父親の愛情を取り戻すためと解釈されているあたりは単純すぎる気もするけれど、こうした単純化によって映画全体の尺を1時間35分というコンパクトなサイズに納めている。映画の終盤は段取りが出来過ぎで、いかにも「舞台劇の翻案です」という感じがしてしまうが、この段取りのよさによって映画の終盤が引き締まった印象を与えるのも事実。ここを妙にリアルにしてしまうと、観客には陰惨な印象だけが残ってしまうと思う。すべての登場人物が運命の糸に絡め取られるように決まった役割をきっちり演じ、大きな悲劇に追い込まれていくというラストは、その劇的な効果によって観るものに快感を与えるだろう。

 ヒューゴを演じたのは『パール・ハーバー』『シャンプー台のむこうに』のジョシュ・ハートネット。彼はちょっと地味で薄暗い印象がある役者だけれど、その地味さや薄暗さがこの映画の役にはピタリとはまった。デジー役はジュリア・スタイルズ。オーディン役のマカーイ・ファイファーは、今売り出し中の若手黒人俳優です。

(原題:O)

2001年12月公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
問い合せ:ギャガ宣伝第1グループ、ムービーテレビジョン

(上映時間:1時間40分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/o/

※マイケルという名は原作でもキャシオのファーストネームとして使われていると、読者からメールで指摘を受けた。シェイクスピア作品をテキスト化しているWEBサイトで調べて、キャシオのフルネームは「Michael Cassio」であることを確認。名前をもじらなかったのではなく、原作のままだったのです。(2001.12.29)
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