クライム アンド パニッシュメント

2001/10/10 メディアボックス試写室
文豪ドストエフスキーの小説「罪と罰」をアメリカの青春映画に翻案。
物語は薄いが絵作りはなかなかユニーク。by K. Hattori

 文豪ドストエフスキーの長編小説「罪と罰」を、現代アメリカの青春ドラマに翻案した映画。殺人を犯した主人公が良心の呵責に苛まれ、自分を深く愛する人との出会いを通してついに自首することを決意するという話の流れは同じだが、内容は原作をかなり大胆にアレンジしている。原作のラスコーリニコフに相当するのは、女子高校生のロザンヌ。心優しい娼婦ソーニャに相当するのが、学校で一番の変人と言われているヴィンセント。ロザンヌは母とその再婚相手との三人暮らしだが、母が別の男と恋愛関係になって家を飛び出してしまったことから、義父とふたりきりで家に取り残される。妻の浮気と家出に怒り狂った義父は、酔った勢いでロザンヌをレイプしてしまう。ロザンヌはこのことを誰にも打ち明けられぬまま、義父を殺害することを決意。恋人に協力を頼んで何とか義父を殺すことに成功する。証拠は何も残さない。アリバイも完璧。これは完全犯罪だ。ところがたまたま家に戻ったロザンヌの母が夫の死体を発見。彼女自身が犯人として警察に逮捕されてしまう……。

 原作ではラスコーリニコフがいきなり金貸しの老婆を殺してしまうのだが、映画ではロザンヌが義父を殺すまでが長い。自分の優越性を証明するための殺人という原作の犯行動機はなくなり、ロザンヌの動機は憎しみから生じたもの、もしくは自分自身の身を守るためのものとして描かれる。彼女が良心の痛みを感じるのは、母親が自分の犯した罪によって処罰されるかもしれないからだ。話としてはわかりやすくなっているが、これではロザンヌが良心の痛みに耐えかねて罪を告白するのか、母親を救いたくて罪を告白するのかがよくわからなくなるような気がする。ドストエフスキーの長編小説を1時間40分の映画にしようというのだから、このぐらいの単純化は必要なのかもしれないけれど……。(ちなみに僕は原作を未読ですが、自宅にあった世界文学全集で冒頭の数ページは読んだ記憶がある。また「罪と罰」の粗筋は大きな辞書や百科事典に載ってます。)

 この映画でわかりにくいのは、ロザンヌにストーカーのようにまとわりつくヴィンセントというキャラクター。彼はロザンヌのすべてを知り、すべてを受け入れ、彼女を愛し続ける。ロザンヌは彼に支えられることで、自分自身の罪と罰を受け入れる。映画の主役は実質このふたりなのですが、他の人物がいかにも現代風の生々しいキャラクターとして造形されているのに比べ、あまりにも浮世離れして都合のよいキャラクターになっているような気がする。特にヴィンセントはよくわからない。この少年は、一種の病気なんじゃないだろうか。少なくとも映画を観ていると、そう思えてしまう。不気味ですよ。

 ロザンヌを演じるのはモニカ・キーナ。ヴィンセント役はヴィンセント・カーシーザー。エレン・バーキン、ジェフリー・ライト、マイケル・アイアンサイドなど、脇役陣の方が豪華。ロブ・シュミット監督の絵作りはなかなか面白い。この絵がなければ退屈な映画だと思う。

(原題:CRIME + PUNISHMENT)

2001年11月中旬公開予定 シネ・リーブル池袋
配給・問い合せ:アミューズピクチャーズ

(上映時間:1時間40分)

ホームページ:http://www.amuse-pictures.com/crime/index.html

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