トレーニング デイ

2001/10/05 ワーナー映画試写室
犯罪を取り締まるべき警官が職務熱心さのあまり腐敗する。
デンゼル・ワシントンが悪徳警官を熱演。by K. Hattori

 やる気満々だが経験不足の新人刑事と、酸いも甘いも噛み分けたベテラン刑事がコンビを組む。悪を憎む熱意と正義派一直線の新人を、世の裏も表も知り尽くしたベテランが時に優しく、時に厳しくリードしながら、大きな事件の解決へと導いていく。そんな刑事ドラマの定石を踏まえつつ、途中ですべてをひっくり返してしまう異色の犯罪ドラマ。交通課勤務の警官から自ら志願して麻薬取締課に移動したジェイク・ホイトは、移動初日に過酷な現実の洗礼を受ける。彼が配属されたのは、麻薬捜査で数々の実績を上げているアロンゾ刑事のチーム。アロンゾは麻薬取引の裏も表も知り尽くしたベテランで、彼自身も麻薬ディーラーのように物を考え行動することで、数々の難事件を解決してきた男だ。彼は新人のジェイクに、麻薬捜査官の心得をひとつひとつ伝授していく。麻薬捜査はきれい事だけではない。時には自らが法を犯しながら、より大きな違法行為を摘発する心構えが必要なのだ。自らが悪の世界に片足を突っ込む気概がなければ、その捜査官は即座に殺されてしまうだろう。

 若い熱血警官ジェイクを演じているのはイーサン・ホーク。彼の教育係であるアロンゾ刑事をデンゼル・ワシントンが演じている。このアロンゾという男は、「鬼平犯科帳」の主人公・長谷川平蔵の現代版みたいなものだ。悪の道を知り尽くし、時には自らも悪に加担する素振りを見せながら、社会の闇に潜む悪を打ち砕く。悪の中に善があり、善の中にも悪があることを知っている男。だがこの男が鬼平と違うのは、黒白付けがたい社会の隙間で犯罪捜査をしているうちに、アロンゾ自身が悪そのものになってしまったことだ。彼は紛れもない警官であり、仕事は麻薬ディーラーを逮捕することだ。しかしその目的を絶対化し、「捜査という正義のためならどんな手段も許される」「捜査上のミスは隠蔽されて当たり前」「危険に見合う見返りを得るのは当然の権利」と考え始めてしまったところにこの男の弱さがある。大きな権力を持つ者がその権力を傘にして悪事を働き、その悪事を権力によって隠蔽するのだからたまらない。しかも彼は検察権力の中枢に賄賂を送り、いわば幹部のお墨付きで悪事を働いているのだ。こうした権力の腐敗はどこでも起こりうる。アロンゾの場合、それがたまたま警察の、しかも麻薬取締という捜査の最前線だったために劇的なドラマになるが、日本の役所だって似たようなことはやっているのだ。外務省がいい例だろう。

 デンゼル・ワシントンが悪徳警官というのはミスキャストのようにも見えるが、これがデルロイ・リンドのような「いかにもワル顔」の役者では映画が成立しない。新人のジェイクから見えるアロンゾは、常に「正義のために悪を為す男」でなければならない。善人が悪を演じているように見えるという点で、ワシントンという配役は絶妙。しかも彼が本物の悪党としての本性を見せてくるあたりの、底知れない凄味と迫力。監督は『リプレイスメント・キラー』のアントワーン・フークア。

(原題:TRAINING DAY)

2001年10月20日公開予定 全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画

(上映時間:2時間02分)

ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/trainingday/

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