薔薇の婚礼
〜真夜中に交わした約束〜

2001/09/10 ムービーテレビジョン試写室
ストーカーの「ドラキュラ」をMALICE MIZER主演で映画化。
サイレント映画風の演出がユニーク。by K. Hattori

 僕は名前すら知らなかったが、一部に熱狂的なファンがいるらしい和製ロックグループ「MALICE MIZER(マリスミゼル)」の初出演・初主演映画。原作はブラム・ストーカーの古典怪奇小説「ドラキュラ」だ。登場人物名が違うとか、物語の時代背景が違うとか、細かな違いはいろいろある。でもムルナウの『ノスフェラトゥ』だって原作はストーカーなんだから、『薔薇の婚礼』だって原作はストーカーでしょう。もちろんストーカーの原作は既に小説としての著作権が切れている。だからそれをどうアレンジしようがパクろうが、映画に原作者であるストーカーの名前をクレジットする必要はない。

 映画の前に配られたプレス資料には、「映画をご鑑賞された皆様」に宛てて、《この物語はマリスミゼルならではの謎めいたストーリー構成になっております。どうか花嫁が誰であるのか、ラスト結末がどのようになるのか、まだ見ていない方にお話になることをご遠慮下さるよう、心からお願い申し上げます。》との但し書きがある。でもこの映画はこうしたお願いをされる以前に、僕には何がなんだかさっぱりわからなかった。トランシルバニアの貴族がロンドンへの移住を望み、ひとりの青年にその仲介を依頼する。青年は恋人をロンドンに残してひとり老貴族のもとへ。じつはこの老人こそ、伝説の吸血鬼ドラキュラ伯爵だった。青年は伯爵の屋敷に閉じこめられ、その間に伯爵はひとりロンドンへ。彼の目的は青年の婚約者セシルだ。青年は屋敷を脱出して伯爵を追いかける……。こうした筋運びはまるっきりストーカーの小説そのもの。しかし映画はストーカーの小説というより、コッポラが映画化した『ドラキュラ』を参考にしているようだ。ドラキュラ伯爵と青年と婚約者セシルの関係は、映画『ドラキュラ』のドラキュラ伯爵とジョナサンとミナの関係をそのまま引き継いでいる。コッポラのドラキュラは原作に忠実であろうとしながら、それでも伯爵とミナの間にあるエロチックな関係をかなり前面に押し出していたのだが、『薔薇の婚礼』は原作の縛りを取り去って、さらにこのエロチシズムを前面に出してきた。それによって物語の整合性は失われるのだが……。

 かつて金子修介監督は「日本人が演じて一番さまにならないのはドラキュラ」と言い切り、その似合わない役柄を無理矢理あてがわれた男の悲喜劇をモチーフにした映画『咬みつきたい』を作った。本作『薔薇の婚礼』ではやはり日本人がドラキュラをはじめとする吸血鬼を演じているのだが、いかにも純日本人である緒方拳に比べると、MALICE MIZERのメンバーの方が吸血鬼に似合うのかな。でもやはりちょっと苦しい。日本人がレースのひらひらのついた服を着て、「ドラキュラでござい!」と登場するのは違和感がある。しかしこの映画はそんな違和感を、サイレント映画風の演出という別種の違和感でうち消す。登場人物は台詞を一言もしゃべらず、すべてをタイトルで処理する。これはなかなかユニークでした。だからって映画が面白くはないんだけどね。

2001年11月公開予定 シネ・リーブル池袋
ほか全国シネ・リーブル系にて順次公開
配給:ギャガKシネマグループ
宣伝・問い合せ:シネマ・クロッキオ
(上映時間:1時間21分)

ホームページ:http://www.rex-creative.jp/ROSE/

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