UFO少年アブドラジャン

2001/07/27 映画美学校第2試写室
ウズベスキタンの小さな村にやってきた宇宙人と村人の交流。
ほのぼのとしたSFコメディ映画。これは傑作。by K. Hattori

 世界中でもっとも有名な映画監督スティーブン・スピルバーグ監督のもとに、ウズベスキタンの小さな村から1通の手紙が届く。「拝啓スピルバーグ様。先日村の公民館であなたの作った『E.T.』を拝見しました。感動しました。そこで今回はあなたに、私の村に宇宙人がやってきたお話をしたいと思います」。ことの起こりは村の集会でモスクワからの電報が読み上げられたことだった。それによれば、宇宙から飛来した謎の物体がこの村周辺にやってきたという。宇宙人を目撃した者は、直ちに村役場に届け出ること。ところがこの電報の内容を正確に理解した村人はほとんどおらず、村人たちは村に誰か客人がやってくるらしいと考えた。その翌日、迷い牛を探しに出たバザルバイは墜落したUFOから投げ出された少年を発見。彼にアブドラジャンという名前を付けて世話をすることにする。ところが夫の様子がおかしいことに気づいた彼の妻は、アブドラジャンを夫の隠し子だと信じ込み、その噂はあっという間に村に知れ渡る。バザルバイの妻は「子供に罪はない」と寛大な気持ちでアブドラジャンを家に引き取ることに同意し、不思議な超能力を持つアブドラジャンは村人全員に受け入れられる。ただし「バザルバイの隠し子」としてだが……。

 1994年に東京で開催された「中央アジア映画祭」で上映されるやカルト的な人気を呼び、その後伝説となっていたウズベスキタンのSFコメディ映画。この映画を観ると、特撮とか、SF考証とか、そんなもんどうでもいいじゃねぇかと大らかな気持ちにさせられてしまう。『ハムナプトラ2』『A.I.』『PLANET OF THE APES/猿の惑星』『ジュラシック・パークIII』など、この夏はハリウッド製のSF映画がたくさん公開されたけれど、楽しさという点でこの『UFO少年アブドラジャン』にかなうものはないと思う。話は徹底してナンセンスで特撮もチャチ。それが笑いを生んでいる面もあるのだが、これは断じて「バカ映画」ではない。ナンセンスな物語も、チャチな特撮も、作り手がその効果をきちんと考えて作ったものだと思う。この映画のほのぼのしたムードや、底が抜けてしまったような明るさと楽観主義は、特撮のクオリティを上げたからといってこれ以上に表現できるものではないと思う。この映画はファンタジーなのだ。観客をこの映画が作り出すファンタジーの世界に引き込む手段として、ナベのようなUFOや、それをつり下げている糸が登場するということだと思う。

 このファンタジーを成立させているもうひとつの大きな要素は、これが素朴な村人の「手紙」という形式を採っていることだろう。この映画は村人が出会った事実そのものを描いたわけではなく、この手紙を書いた村人の主観というフィルターを通した世界になっている。手紙の宛先がスピルバーグというのもいいアイデア。宛先が科学者やジャーナリストでは、この映画のおとぎ話めいた雰囲気は生まれない。これが計算なのか偶然なのかさっぱりわからないが、傑作であることは間違いない。

(原題:Abdulladzhan, ili posvyaschayestya Stivenu Spilbergu)

2001年近日公開予定 ユーロスペース
配給:パンドラ
(上映時間:1時間28分)

ホームページ:http://www.pan-dora.co.jp/

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