オテサーネク

2001/07/25 シネカノン試写室
チェコの民話を現代風に翻案したシュヴァンクマイエル最新作。
スピルバーグの『A.I.』に白けた人はこれを観るべし!by K. Hattori

 チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルの最新作。シュヴァンクマイエルは「チェコ・アニメの巨匠」という文脈で紹介されることも多いが、実際にはアニメ技法を使ってシュールレアリズム的世界を描く作家だと思う。もちろん純然たるアニメ作品もたくさん作っているけれど、作品の中にはアニメ技法をまったく使わない作品もあるし、この新作『オテサーネク』もアニメを使っている部分はごく一部分だ。

 原作はチェコの有名な民話だというが、この映画はそれを現代に翻案し、さらに原作である民話と二重写しにするという構成。子供のいない夫婦が木の根っこを子供に見立てて可愛がっているうちに、木の根が生命を持って動き始める。オテサーネクと名付けられたその木の根の化け物は家中の食べ物を食べ尽くし、両親を食べ、近所の人たちも食べ、際限なく大きくなっていく。シュヴァンクマイエル本人がまったく意識しないところで、この映画はスピルバーグ監督の『A.I.』の辛辣なパロディのようになっているのが面白い。子供のいない夫婦が手に入れた人工の子供。妻にそれを与えておきながら、やや批判的な眼差しを向ける夫。人工の子供に盲目的な愛を注ぐ妻。この映画では「愛」という抽象的なものを、「食べ物」というきわめて現実的なものとして描き出す。子供に愛(食べ物)を与えるために、すべてを正当化する妻の狂気。際限なく愛(食べ物)を求めて身もだえするオテサーネク(オティーク)。両親はついにオテサーネクを捨てるが、近所に住む女の子はそんなオテサーネクを哀れに思って代わりに愛(食べ物)を与え始める。

 オテサーネクが動き回るシーンは当然アニメなのだが、この映画には他にもテレビCMのアニメ、スープの中から現れ消える古釘、呼吸するように動くパンケーキなど、シュヴァンクマイエル流のアニメ世界がたっぷり盛り込んである。日常の中の小さなほころびから、その向こうの異世界が顔をのぞかせるような異様な感覚こそ、シュヴァンクマイエルの真骨頂だろう。

 この映画は非常にグロテスクで恐いものだが、そのグロテスクさも恐ろしさも、木の根っこが動き始めるという超自然現象にあるわけではない。オテサーネクの両親が異形の我が子に注ぐ盲目的な愛情が、オテサーネクのあらゆる行為を正当化していくのが恐いのだ。母親は自分が食い殺されそうになっても「髪をショートにするいい機会だった」と言い、猫が食い殺されれば「もうじき寿命だった」と言い、郵便配達や福祉事務所の職員が殺されても「誰も気にしない」「態度が悪かったから自業自得」などと言う。オテサーネクを世話し始める少女は、マッチ棒を使ったクジでオテサーネクの餌になる人間を選び出すが、その候補者の中には彼女の両親も入っている。目の前のある対象に愛を注ぐためなら、他のどんな人間が不幸になっても構わないというエゴイズム。オテサーネクの無尽蔵な食欲など、こうした人間のエゴイスティックな愛に比べれば可愛いものなのです。

(原題:OTESANEK)

2001年10月公開予定 ユーロスペース
配給:チェスキー・ケー、レン コーポレーション
(上映時間:2時間12分)

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