メメント

2001/07/24 メディアボックス試写室
記憶障害の男は妻を殺した男に復讐することができるのか?
この映画で試されるのは観客自身の記憶力だ。by K. Hattori

 人間は出来事のすべてを覚えているわけではなく、古い記憶や重要ではない記憶から少しずつ忘れていってしまう。ところがこれとは逆に古い記憶は比較的良好に保ちながら、新しい記憶を次々に忘れてしまうのが前向健忘だ。ほんの5分か10分前に自分が何をしていたのかが思い出せない。目の前で話をしている相手が誰なのかも思い出せない。かなり厄介な障害だが、場合によってはかなり治療が困難なものらしい。

 保険会社の調査員だったレナードは、家に押し入った強盗に殴られたことと目の前で妻がレイプされ殺されたという精神的なショックが重なって、重度の前向健忘になってしまう。彼の最後の記憶は、目の前で倒れている妻がゆっくりと死んでいく姿。それ以降の新しい記憶は彼に存在しない。現在の彼を生かし続けているのは、妻を殺した犯人を見つけて復讐したいという明確な目的があるからだ。もっともこの目的も彼は忘れてしまうので、身体のあちこちに自分の目的や調査結果をびっしりと刺青してある。ポラロイドカメラとメモ用紙を常に手元に常備し、自分の見たこと、やったこと、調査結果などを常に詳細なメモとして残してある。他人が「あのときお前はこう言った」「あのときお前はこうした」という台詞はまったく当てにならない。彼の頼りは自分の書いたメモだけ。ある朝目覚めた彼は、自分の作ったメモに従って、犯人とおぼしきひとりの男を殺す。はたして彼は本当に犯人だったのか? 物語は結末から過去に向かって、ゆっくりと逆戻りしていく。

 時間は常に過去から現在を経て未来へと流れていく。しかしレナードの人生には過去がなく、常に現在と未来があるだけだ。この映画は「過去を持たないレナード」と観客を同じ意識状態に放り込むため、現在から過去に向かって物語が進行していく。レナードは自分がなぜその場にいるのか、自分の目の前にいる相手が誰なのかわからない。観客も過去の経緯がまったくわからないので、レナードと同じように「なぜ?」「だれ?」という疑問を常に持ちながら映画を観なければならない。未来から過去を帰納法的に推理していくドラマ。その先には、思いがけない真実が待ちかまえている。ちょっと驚いた。主人公レナードを演じているのは『L.A.コンフィデンシャル』のガイ・ピアーズ。彼に協力する謎の女ナタリーを演じているのは『マトリックス』のキャリー=アン・モス。レナードに付きまとうテディという男を演じるのは『バウンド』『マトリックス』のジョー・パントリアーノ。監督・脚本はクリストファー・ノーラン。

 仕事で映画を毎日のように観ていても、「これはすごい!」「これは新しい!」と思う映画にぶち当たることは年にほんの数回かしかない。この映画はその数回の事例にあたる。回想形式の映画は数あれど、これほど込み入った構成の映画はなかなかないだろう。脚本構成のアイデアが面白く、そのアイデアを明確に映像化する実力もすごい。全部観た後、もう1度観たくなる映画です。

(原題:MEMENTO)

2001年秋公開予定 シネクイント
配給:アミューズ・ピクチャーズ
(上映時間:1時間53分)

ホームページ:http://www.amuse-pictures.com/

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