ブロウ

2001/07/23 メディアボックス試写室
アメリカのコカイン王ジョージ・ユングの伝記映画。
ジョニー・デップが主人公の30年を演じきる。by K. Hattori

 1960年代後半から70年代にかけて、マリファナ商売でがっぽり儲けたアメリカ人青年ジョージ・ユングは、FBIに逮捕されてぶちこまれた刑務所の中でコロンビア人のこそ泥から新しい麻薬の話を聞く。「コカイン? なんだそりゃ?」というのがその時のジョージの反応だった。出所後にこのコロンビア人と組んで本格的にコカイン・ビジネスに乗り出したジョージは、アメリカ西海岸を中心とする巨大なコカイン・マーケットを作り巨万の富を得る。ジョージはピーク時に、アメリカのコカイン・マーケットの8割以上をその手に握っていたという。「コカインってなんだ?」からここまでほんの数年。ゼロから全米規模の麻薬市場を開拓したジョージは、アメリカンドリームの体現者に見えたのだが……。

 これは実話をもとにしたドラマだ。ジョージ・ユングは実在の人物で、映画に登場するエピソードもほとんどが実話らしい。ただし役名などの細部はちょっとずつ変えてある。監督は『ビューティフル・ガールズ』のテッド・デミ。ブルース・ポーターの同名原作を脚色したのは『アメリカン・ヒストリーX』デイヴィッド・マッケンナと『ミルドレッド』『シーズ・ソー・ラヴリー』の監督でもあるニック・カサヴェテス。主人公ジョージを演じているのはジョニー・デップ。その妻マーサ役はペネロペ・クルス。ジョージの両親をレイ・リオッタとレイチェル・グリフィスが演じ、マリファナ密売の元締めデレックをポール・ルーベンスが演じるという豪華キャスト。(ポール・ルーベンスはかつてピーウィ・ハーマンとして知られていた人気俳優。)

 無一文の若者が自分の才覚ひとつで巨万の富を築くという映画の前半は、典型的なアメリカン・ドリームの物語として描かれている。もちろんすぐ近くには暴力の世界もあるのだが、トントン拍子に成功の階段を駆け上がっている人間には誰も手が出せないものだ。ジョージの行く手にはさえぎるものなど何もない。空は青空、背中に追い風、順風満帆な成功者の人生を満喫するジョージ。これはどんな時代のどんな分野の仕事でも、ベンチャー起業家だけが味わえる甘美な成功の夢だろう。しかし市場が十分に開拓されノウハウが蓄積されてくると、その時点で個人起業家の時代は終わる。ゼロから市場を切り開いた先駆者は、組織の力に追われて市場からはじき出されてしまう。そこでうまく商売から身を引くことができればいいのだが、一度習い覚えた成功の味はなかなか忘れられない。三つ子の魂百まで。麻薬で巨万の富を築いた男は、財産や地位をすべて失った後でもなお再び麻薬ビジネスでそれを取り戻そうとしてあがく。この映画は麻薬ビジネスの世界が舞台だが、同じようなことは他のビジネス分野でも日常茶飯なのだろう。

 一度は頂点を極めながら、そこから徐々に徐々に最底辺まで落ちていく主人公の姿が何とも惨め。『スカーフェイス』のアル・パチーノのような華々しい最後より、『ブロウ』の方が何倍も悲惨に思えてくる。

(原題:BLOW)

2001年9月公開予定 みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(上映時間:2時間3分)

ホームページ:http://www.blow-jp.com/

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