反則王

2001/07/12 シネカノン試写室
『シュリ』『JSA』のソン・ガンホ主演のコメディ映画。
駄目サラリーマンが反則レスラーに変身。by K. Hattori

 いつも遅刻ばかりしているオチコボレ銀行員のイム・デホは、職場の上司から連日のように叱られ、怒鳴られ、ヘッドロックの制裁を受けている。小言はともかくヘッドロックだけは何とかしてほしいと考えたデホは、たまたま見つけたプロレスジムに入門。デホの意外なやる気と才能に目を付けたジムの館長は、彼を反則専門のレスラーとしてプロのリングに上げてしまう。

 主人公デホを演じているのは『シュリ』で主人公の親友を、『JSA』で北朝鮮の兵士を演じていたソン・ガンホ。これが彼の初主演映画だという。ハードな役の印象が強い俳優だが、キム・ジウン監督の前作『クワイエット・ファミリー』にも出演していたから、コメディが初めてというわけでもない。シリアスな役にしろハードな役にしろ、この人のキャラクターは「真面目」というのが持ち味だろう。真面目な男があるときは悲劇の主人公になり、真面目な男がまた別のところではドツボにはまって観客を大笑いさせる。悲劇と喜劇は紙一重だ。

 普通のサラリーマンがプロレスラーになるという話だが、試合のシーンに説得力がないとすべてが嘘っぽく感じられてしまう。その点この映画は、試合シーンがかなりリアルにできている。何でも撮影前に1日6時間ずつ2ヶ月の特訓をした成果だという。試合シーンの中にも数々のギャグを織り込む構成は、まるでアクション・コメディ。僕はキム監督の前作『クワイエット・ファミリー』を騒々しいだけでつまらない映画だと思ったが、今回の『反則王』は大違いの面白さだった。物語の焦点を主人公ひとりに絞り込んで、常に主人公の視点からドラマを作っているのが成功したようだ。主なエピソードはすべて主人公を軸足に展開する。主人公と上司、主人公と父親、主人公とあこがれの女性、主人公と館長の娘、主人公と他のレスラーたち……。同僚の銀行員が不正融資の仕事を押しつけられる話や、ジムの館長と他のジムの館長の確執など、主人公から離れた別のエピソードもあるが、それらが主人公がらみのエピソードを押しのけて出しゃばってくることはない。

 この映画が観客の共感を呼ぶのは、主人公がなにをやっても上司に勝てないという部分かもしれない。デホはどんなに体を鍛えても上司のヘッドロックをはずせず、いいようにイビリまくられてしまう。リングの上ではトレーニングで身につけた実力を発揮できるのに、上司の前では蛇ににらまれたカエルのように身体が萎縮してしまう。こういう「天敵」のような関係が、人間同士の間にもたくさんあるのです。人間は機会があれば変ることができる。でも一度出来上がってしまった人間関係はなかなか変らない。それがこの映画のテーマかもしれない。

 なんにせよ最近これほど笑った映画もない。主人公が一所懸命になればなるほど、にっちもさっちもいかない窮地に自ら追い込まれて身動きがとれなくなる面白さ。不正融資問題の行方など、脚本上に放置された諸問題もあるけれど、それはそれ。十分に楽しめる映画です。

(英題:The Foul King)

2001年8月11日公開予定 シネ・ラ・セット
配給:GAGAアジアグループ、グルーヴコーポレーション
宣伝・問い合わせ:メディアボックス

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